悲しき詩 | ナノ




24 進み過ぎた時間

『ぬぎぎぎぎ…』


ググググ…


『―――ダ、メかぁぁ』


方舟内の一室、押しても引いても蹴飛ばしても叩いてもビクともしないドアの前で、愛結は何度目かのため息をついた

紅蓮やロードたちは易々と開けれるこのドアだが、愛結が開けようとするとまるでコンクリートの壁かのように全く動く気配がない

すっかり怪我も癒え、有り余った時間と体力を使ってあの手この手でドアを開けようとするも、どれも不作に終わっている

時計がないため正確な時間は分からないが、誰かしら持ってくる食事の回数から見て誘拐されてから1週間前後は経過している

この閉じ込められた空間で唯一外界との接点を繋ぐドア

忌々しい頭のリングによってイノセンスが封じられた今、愛結は何の力も持たないただの人間に過ぎなかった

悔しさに唇を噛みしめるも、これはイノセンスに頼りきって、いや依存していた結果なのだろう

この目があれば得物を手に戦うより爪を変化させて戦った早いし、今まではそれで問題なく戦えてきた

この目さえあれば、負けない自信もあった―――あれば、だが


『まさかイノセンスが使えないだけで……』


――ここまで不安でたまらなくなるとは思わなかった

これを期に何か他に戦う手段を用意したほうがいいのかもしれない

武器は一通り扱えるはず、身体能力も悪くないと自負している

このイノセンスの力と合わせれば、何か違う、新しい戦い方ができるのかもしれない―――


ガチャリ


真剣に考え込んでいたため、そのドアがゆっくりと開かれたことに気付かなかった


「―――あれ、思ってた以上に元気そうだねぇ高井愛結」


その突然の来訪者の存在に、愛結は弾かれたように顔をあげ―――驚きに目を見張る


『、あんた…なんでここに、』


「久しぶりだね、高井愛結」


愛結では開けることのできなかったドアにもたれかかって、こちらを見つめるその目は友好的な言葉とは裏腹に憎しみが込められていて棘々しい

片腕の少年はニコリと笑う


「惨めなものだよねー。あの"最強"だなんて言われていたアンタが完全に無力化されて敵に囚われるなんてねぇ?」


『………一体何しにきたのよ、シルフ』


名前を呼ばれたシルフはニヤリと笑みを形作った




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