悲しき詩 | ナノ




03:



「…あれ?高井さんは?」


最初に気づいたのは、室長であるコムイだった

一応用意させた担架が一つ余っているのを見て誰に言うともなく周りを見回す

聞こえてないのか、あえて聞こえないようにしているのかは定かではないが、それなりの声量で言ったのにも関わらず誰からも返事がかえってこない


「いやみんなさ、彼女のことあんまり…っていうか全然好きじゃないってことは知ってるけどさ…僕にだって立場があるんだよ?グスン」


「何1人でブツブツ言ってやがるんだ」


無視されたことにショックを受けジメジメと落ち込んでいるコムイに、呆れたように話しかけたのはクロスだった


「あぁクロス元帥!あなただけです僕を無視しないのは!」


「んなこと知るか。それより愛結はどこだ?」


コムイの言葉をサラリと受け流し、愛結の居場所を尋ねる

出迎えられた時、1人輪から外れるように移動したところまでは見ているが、その後は色々応対に追われて愛結の姿を見ていない

そう動けるはずないのだから、もう医療班に運び出されたあとなのかと思い、こうしてコムイに聞いたのだが…返ってきたのは想像してなかった言葉だった


「いや、それが僕も見てなくて…そこに担架が余ってるからまだ運ばれてはないはずなんだけど…」


「な…、!?」


「でも高井さんなら大丈夫でしょ?1人怪我軽そうでしたし…」


絶句しているクロスに構うことなくコムイは言葉を続けるが、唐突にクロスに肩を揺さぶられた


「おい!今、すぐにアイツを探せ!今すぐに、だ!」


「わ、ちょ、どうしたんですか元帥!」


「目に見えないだけでアイツの"負った傷"は誰よりも深い!下手するとアイツ今頃…!」


そのあまりに必死、かつ真剣な様子にコムイの顔にも緊張が現れる

普段の飄々とした様子とはかけ離れているその姿に周囲にいた人たちも何事かと驚いている


「…婦長」


「何でしょうか室長」


素早く前に出た婦長に、コムイは真剣な様子で指示を出す


「婦長、何人かを連れて高井さんを探し出して欲しいんだ。きっとそう遠くには行ってないと思うから。見つけたら婦長の現場の判断に任せるよ」


「わかりました。…では行きますよ」


慌しく走っていく婦長たちと共に、クロスもまた、その足を動かしていた






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