悲しき詩 | ナノ




02:



『…煩い……』


「ひ…っ」


男は自分の顔の真横に突き刺さった大剣を見て声を漏らす

目にもとまらぬ速さで動かされた剣が、壁に深くのめりこんでいる

先ほどまでの興味ないとばかりの目が一転して殺気でギラギラとしていた

その傷を負った猛獣さながらの気迫に男たちは一歩、二歩と後ずさる


「な、なんだよお前…!」


色違いの瞳で睨まれ、掠れた声しか出てこない


『…どいて、って言ってるの…邪魔しないで…』


その高圧的な態度に、頭に血をのぼらせた男が、一歩前に出た


「お前…ふざけんじゃねぇぞ!!」


拳を握り、それを躊躇うことなく愛結の顔めがけてたたきこんだ


ガンッ


避ける素振りを全く見せなかった愛結は殴られた勢いそのままに壁にぶつかった


『…っ』


その強い衝撃に一瞬息がつまる

壁に背を預け、ズルズルと地面に座り込む

俯かれた顔は、赤い髪に隠されて男たちからは見えない


『、ッゴホゴホ!』


急に、愛結が口もとに手をあてて咳き込んだ


「な、なんで…」


咳き込む手の隙間から、赤い血がどんどん零れ落ちていくのを見て男たちは動揺を隠せない

見た限り、愛結が一番ケガが軽いはずなのだ。現に、今現在立っているのはあのメンバーの中ではこの女だけだ

なのに、流れる血の量は、とても"一番軽い"人のとは思えない


「…お、おれ知らねぇから!」


「俺だって…!」


1人、2人とその場を逃げるように去っていき、ついに愛結の周りには誰もいなくなった

先ほどとはうって変わり、静けさを取り戻した空間に愛結の荒い呼吸音だけ聞こえてくる

叩きつけられた際の衝撃にで、傷が戻り始めてしまったのだ

せめて、ツナたちの怪我が治るまでは戻らないで欲しかったのに…っ

肩に、腕に、足に、腹に、顔に傷が戻っていく


『は、はは…はははは…っ!!』


自分が笑っているということにも気づかない


『ははは、は……ぐ、れ…――』


糸が切れた人形のように体が傾き、意識が闇におちていく

――意識が途切れる直前、誰かに呼ばれたような気がした






[ 334/461 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -