悲しき詩 | ナノ




01:癒えることのない傷




カツン カツン


アレンたちが全員医務室に連れて行かれたなか、愛結は反対方向へと歩いていた


カツン カツン


篝火を半分引きずるように持ちながら、ボロボロのドレスをまとってゆっくりと歩いていく

行き先は一つ―――ヘブラスカのところ

ケガを治療するよりも、この篝火の適合の有無をハッキリさせたかった

適合者が紅蓮――いや正確には紅蓮の腕か、自分なのか……それを、ヘブラスカに見て欲しかったのだ

どのみち今医務室に行っても煙たがれるだけで治療なんかしてくれないと分かっているから別に急ぐこともない


カツン カツン


長く続く廊下

もう少しで着く、というところで…前に人が立ちふさがった


「高井愛結」


誰、と若干の苛立ちをこめて顔を上げると、白い服を着た…つまり探索部隊の人が、険しい顔をして自分を睨みつけて立っていた

こうやって睨まれるのも久しぶりだ、とどうでもいいことを考えていると、その中の1人が口火をきった


「お前、なんで生きてるんだよ…ユミちゃんの弟を殺したくせに!!」


情報まわるの早くないか?もうコトの次第を知ったらしい

シルフのことも"ユミの弟"としてしか認識してないのか、とどうでもいいこと考えていると、話を聞いてないことが分かったのか、別の探索部隊の1人が声を荒げた


「おいっ!聞いてんのか!?」


よくよく見ればみんなどことなく見覚えのある顔ばかりだった

ユミの信者ともいえる人たちだから、ユミの弟を"殺した"愛結は許せるはずないだろう

口々に罵りの言葉を吐く人たちを、ただ見ている愛結


「だいだいお前さえ、」


『どいて、くれませんか?』


長く続きそうな男の言葉を遮り、たんたんと愛結は喋る

その反応に男は一瞬怯むが、人数差という自分達の優位を思い出し、あくまで強気な姿勢を崩さない


「だ、だいたい何でお前だけケガが軽いんだよ!その血も全部返り血なんだろ!?ユミちゃんは意識ないしアレンさんたちもあんな酷いケガして眠ってるってのに、お前だけ…!!」


『…どいて……』


「紅蓮さんも裏切ったんだろ!?あんな奴いなくなって清々するけどな!どうせお前も紅蓮さ…いや紅蓮と同じ裏切り者なんだろ!?」


『…、』


シルフも裏切ったのに何で紅蓮だけそんなに言われなきゃいけないの、とかグルグルと頭の中を駆け巡り、無意識のうちに篝火を持つ手が動いた


「あんな裏切り者、死んで当然――」


ガァンッ!






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