殿方達と恋をする | ナノ










"鬼"が治めるこの瀬戸内海には昔から言い伝えがある


"入江の人魚説"


誰もが"まぼろし"で終わらせている






『……人間だ…』


水中からのぞく顔





深海のような深い青色の髪


瑠璃色の瞳


腕の所々にある翡翠色の綺麗なウロコ


そして、ウロコの翡翠より少し深めの色の脚(ヒレ)


名はナツヒメ



そう、れっきとした人魚である



最近、入江から声が聞こえてくるという噂の張本人



彼女は最近、この入江で歌を歌うことが日課になっていた



『なんでこんなところに人間が?…まさか、私のことを捕まえに来たのかな…』


なぜここに人間がいるのか、ということを議題に考えていたがすぐにどうでもよくなってしまったナツヒメは…


『ま、いっか』


あっさりと諦め、元親と少し離れた岩場に上がった




この日の夜空は満天の星


『今夜は満月だ』


ナツヒメは嬉しそうに顔を緩ませ、静かに歌を歌いだした



しかしその声はあまりにも綺麗すぎて、元親を起こすには十分すぎた



「―――ん…?」


重いまぶたをゆっくりとあげた


すると、あの歌声が耳に入る



元親は飛び起き、歌声の主を探した



探すといってもそう離れていないので直ぐに見つかったのだが…



「――っ!!」


そこにいたのは紛れもなく人魚



驚きはしたものの、すぐに慣れてしまった


元親はその歌声に耳をすませた



儚げな歌声が夜に響く



「(綺麗な歌声だな…)」


体は自然とナツヒメの方へ向かっていた



そして――――



パシャンッ



元親の足が小さな潮だまりにはまってしまい、気づかれた



『!?』


「(しまった!)き、綺麗な歌声だな!!!」


咄嗟に出た言葉がコレだ



元親は内心何を言ってるんだ俺は…と思っていた



だが、帰ってきた返事はなんともシンプルなもので…



『ありがとう』



と言った





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