これまでと、これから




『かっちゃんの個性、かっこいいなあ。ヒーローやってるかっちゃん、見たいなあ』
『そんなのすぐだろ。すぐだから、しお前、それまでどっか行くなよ!』
『うん』
『しは個性も悪くねーし、強くなったら俺のサイドキックにしてやる』
『ほんと!?かっちゃん、わたしかっちゃんのために強くなるね!』 
『それまでは俺が守ってやっから、俺から離れんじゃねーぞ』
『うん!』



『あんたらまたいずくんいじめてんの!?』
『うわっしだ!逃げろ!』
『いずくん大丈夫?泣かないで、笑って、ほら、オールマイトみたいに』
『うっ、ぐすっ、ありがとう……ねえ、しちゃん……』
『なあに』
『僕、いつか強くなって、今度は僕がしちゃんを守ってあげるから……!』
『……え』
『だから、待っててね。いつもありがとう、ごめんね……っ』



 今日は久しぶりに"記憶"を見た。

 夢は記憶の欠片を繋ぎ合わせたものらしいけど、これじゃあ単なる回想だ。記憶がそのまま再生されたらしい。個性に慣れていない頃は良くあって、頭の中のメモリーが勝手に起動して再生されるみたいだ。今日のこれはどう考えても、二人の幼馴染みと昨日再会した所為だろう。要するに舞い上がっているんだなあ。
 舞い上がっている証拠に、今日も今日とて目覚まし時計よりも早起きだった。諸々の準備を終えて家を出て、まだ慣れない通学路を歩いて行く。一度電車に乗って、また少し歩けば大きな校舎が見える。正直新居よりもこっちの方が慣れているからすごく安心する。はい今日も、"帰ってきました"。

 昨日の失敗を踏まえて、今日はまっすぐ職員室へ向かった。誰もいなくて寝てしまっても、こっちの方が多分マシだと思う。ここなら流石に誰か起こしてくれる……はず。
 そんなことを考えながらドアを開けた。すると思ってもない二人の姿。

「あれー今日は早いですねえヘッドさん。マイクさんも」
『おーしおかえりー』
「おはようございますー」
「お前は早く来すぎだろ、遠足前の小学生か」

 昨日の私と全く同じことを言われてしまった。これでは自他ともに認める小学生になってしまう。いやいや、高校生だし!雄英高校ヒーロー科だし!

『それにしてもしがうちの生徒か。二年前はへなちょこだったくせに』
「中学一年生なんてそりゃあへなちょこですよー」

 そうなのだ。私は二年前、訳あって彼らと知り合った。それどころかこの二年間は、この雄英高校で生活していた。……うん、わけがわからないと思う。正直私もどうしてそうなったのかよくわかんない。とにかく、色々あったんだ。
 授業中は中学校の勉強をして、お昼休みにはランチラッシュのお手伝い。ガール先生とおしゃべりしたり、放課後は先生たちに訓練をつけてもらったこともある。何というか、文字通り夢のような日々を送っていた。多分いずくんに知られたらもの凄く羨ましがられると思う。いずくんじゃなくても、普通の人には羨ましがられるどころか、妬まれるだろう。だから当分は、秘密なのだ。

 校長先生の計らいで中学卒業の証明を貰って(詳しい事は知らないけれど、とりあえずあの方はすごい方だ)、なんとかこの冬に、このヒーロー科を受験したのだった。
 ……勿論ちゃんと受験はしたんだけど、純粋な私の力で受かったのかと言われると不安になってしまう。志望校側に知り合いしかいないというのも、なかなか怖いものだ。正当な合格であることを祈る。

「そういえばヘッドさんに名無って呼ばれるの結構傷つくんですけど」
「しょうがねえだろ授業中だけだ」
『俺は授業中でも名前で呼ぶぜ!』
「わーそれでこそマイクさんだー!大好きだー!」
「おいコラ」

 相変わらず真っ赤な目をしたヘッドさんはどこか眠たげだ。いつ見てもやる気なさそうだよなあ。この前プレゼントした目薬、よく効くんだけどなあ、さしたのかなあ。さしすぎてなくなったのかもしれない。

「そういえばお前が言ってた"幼馴染"って、あいつらなんだろ」
「そうですよ。未来のトップヒーローです」
『お前ソレ俺らの前で言うか?普通』
「だって本当ですもん」

 かっちゃんは勿論だけど、いずくんだってきっとすごいヒーローになるに違いないのだ。というかかっちゃんには、トップヒーローになってもらわなければ困る。私の将来に関わるんだから。
 遠い昔の約束を、彼はきっと忘れていないだろう。私だって、こんな個性じゃなくても忘れないと思う。


 私の夢は、爆豪勝己のサイドキックとしてヒーローになることだ。


『つうかお前こんなとこ居ていいのか?』
「へあっ!もうこんな時間!」
「遅刻つけるぞ」
「来てたのに!?」

 だらだらと話しているうちに思ったより時間が進んでいたみたいだ。慌てて教室へ向かった。廊下は走らない。
 それにしてもあの二人はなんでこんなに早かったんだろう。特に仕事をしている風でもなかったけど……まあ、いいや。今は遅刻がかかってる。今日から授業が始まるし、張り切っていくぞー!
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