目覚める
マスルールは少女を王宮へ運んだ。
突然倒れた少女にマスルールは当然驚いたが、どうやらその少女は気絶するように眠ってしまったらしかった。
マスルールが少女を抱えて森を出ると、先程の動物達が樹の影から顔を覗かせた。数羽の鳥は、マスルールのあとを着いてきて、しきりに辺りを飛び回った。
森の動物達がこの少女を心配しているのだろうことは、誰の目にも明らかだった。
「…ジャーファルさん」
王宮に着くと、すぐに見知った政務官を見つけた。呼べば、政務官は慌てたように駆け寄って来る。
「あぁ、マスルール貴方今までどこに……って、どうしたんですかその子!?」
ジャーファルは今まで急にいなくなったマスルールを探していたのだが、そのマスルールが見覚えのない幼児を抱えて帰ってきたのだ。まずは驚いた。
「なんか…森にいました」
「サボって森に行ってたんですか貴方は!あぁいえ、まずはこの子ですね…怪我は?」
「寝てるだけですね」
「そうですか、ではとりあえずそこの部屋に運んで下さい。私は…」
「ん、ぅぅ…」
ジャーファルの大声に少女が目を覚ました。少女はキョロキョロと辺りを見回し、やがて首を傾げる。マスルールは少女を床に下ろした。
「あぁ、起こしてしまいましたね…」
「?」
ジャーファルは屈んで少女と目線を合わせる。少女は肩を跳ねさせ、不安そうにしているが、やはりその目には好奇心が残っていた。しかし今は僅かに恐怖心が勝っているようだ。
自分を見たときと明らかに異なる少女の反応を、マスルールは不思議に思った。