再会と挨拶
「(真っ先に挨拶しなきゃとは思ってたけど、やっぱりなんか気まずいなあ…)」
何を話すでも、適当に座るでもなく、並んで扉を見つめたまま大分時間が経った。
ナナシは何か話さなければとひたすら考えるものの、妙な緊張の所為か、どれも言葉にはならない。
ナナシが隣のマスルールを盗み見ると、全ての緊張の原因であるマスルールと目が合った。
「…っあ、」
というのも、シンドバッド達が部屋を出ていってからずっとマスルールはナナシを見つめていたからなのだが…何やら必死になっているナナシはそのことに気付かなかったのだ。
「えっと、あの…マスルールさん」
「……」
「お、お久しぶりです」
「…ああ」
マスルールは軽く眉を顰めたが、それでも二人の視線は交わり続ける。
二人が自分から視線を外すことは極端に少ないため、ナナシとマスルールが二人きりのときに目が合うと、当分見つめあうことになる。それはナナシが国を出るずっと前から変わっていない。
けれど今は、その癖がどうしようもなく気まずい。
「(何か、話さなきゃ)」
「……」
「(っていうかマスルールは何考えてるんだろう…いや、何も考えてなさそうだけど)」
「…ナナシ、」
「ぅえ、はいっ?」
幾分失礼な事を考えていた時に名前を呼ばれたため、ナナシはひどく驚いた。そんなナナシの反応に内心首を傾げつつ、マスルールは続ける。
「おかえり」
「…っ」
マスルールは微かにだが優しく微笑んだ。
久しぶりに見るその表情がひどく懐かしく感じて、それだけで不思議と肩の力が抜ける。
ナナシもまた、一年前と変わらない笑顔で言った。
「ただいま」
マスルールは満足げに頷き、そうしてどちらからでもなく、ようやく目を逸らす。
主達が出ていった扉を、ただ見つめた。
「やあ、おかえりシンくん。何も言わなくて良いからちょっとこっちへおいでよ」
「まずその握りしめた拳をどうにかしてもらおうか…やめろ謝るからやめてくれ悪かったよ!」
「シン、マスルールが何やら不機嫌そうですよ」
「そうか?」
「ナナシ、原因はわかりませんか?」
「マスルールさんの機嫌なんてわかりませんよ。あの人変なところで怒るから…」
「「マスルール、"さん"…!?」」
「へ?」
「ナナシ…お前、マスルールにもさん付けなのか…?」
「ええ、まあ」
「「(なるほど、そりゃあ不機嫌なわけだ…)」」
「?」