再会と挨拶
「あぁ、見つけたわナナシ!こんな所にいたのね」
王宮内を歩いていたナナシが呼ばれた方を振り向くと、そこには八人将のヤムライハとピスティがいた。彼女らは以前から、ナナシの数少ない女友達として、八人将の中でも特に親しくしていた。
そんな二人との再会に、ナナシにも笑顔が灯る。
「うわああナナシだあ本物だああ!!」
「ヤムライハさん!ピスティさん!」
ピスティは感極まった様子でナナシに抱き着き、ナナシはそれを受け止めつつ、ヤムライハに軽く礼をする。
「見ないうちに色々でかくなりおってえ…!!」
「えっ…と、あの、ごめんなさい?」
「本当に伸びたわね、貴方の成長期は一体いつまで続くのかしら」
「知りませんよ」
ははは、とナナシは本当に楽しそうに笑う。
ヤムライハもピスティも、二年ぶりに帰国した彼女を内心案じていたが、元気そうな様子を見て一安心した。
「それにしてもナナシ、二年間で随分と女らしくなったんじゃない?」
「そうですか?」
「うんうん。今のナナシ、ちゃんと女の子だぞ」
前は男の子よりも格好良かったからなー、と懐かしむように零したピスティに、ヤムライハは頷いた。
「今のナナシ、すっごく綺麗よ」
ヤムライハもピスティも、満面の笑みでそう言った。
ナナシは軽く驚いてから、照れ隠しのように笑う。その表情は二年前と全く変わっていなかった。
「嫌だなあ…僕なんかは、お二人の足元にも及びませんよ。お二人は変わらずお美しい…貴方がたの前では、僕が世界で見てきたどんな美女も霞んでしまいます」
「「……」」
ナナシの中性的な顔立ちと低い声、そしてかけらの羞恥もなく発せられる歯の浮くような台詞は、いとも容易く二人の時を止めてしまう。
ヤムライハなどは軽く赤面する始末。当のナナシはといえば、二人の様子にただ首を傾げるのみであった。
正気に戻ったピスティは小さく「前言撤回、」と呟いた。
「天然たらしは全く治ってないね、むしろ悪化してる?」
「ええ、丁寧さが相まって破壊力は倍増…声も前より低くなってないかしら」
「? どうかなさいましたか?」
「これで無自覚なんだから、尚更たちの悪い…」
二人は目の前でひそひそと話しているのに、ナナシにはその内容が全く理解できていなかった。それもそのはず、彼女は幼い頃から、重度の天然たらしだったのだ。
天使の微笑みを携えて、女性に片っ端から口説き文句を並べ立てる。彼女に同性ながら心を奪われた者は少なくない。
その上、かのシンドバッドにも値するそれが、全くの無意識であるというのだから驚きだ。
「あの…何か、失礼がありましたでしょうか?」
二年間世界を旅して身につけた社交術が、彼女の女ったらしに磨きをかけていた。
「いいえ、何でもないわ。何はともあれ、ナナシが元気そうで安心した」
「これからまた、よろしくね!」
「はい。どうかよろしくお願いします」