目覚める
「貴方、お名前は?」
「……」
「…えぇと、ご両親は?」
「……?」
ジャーファルが問い掛けるも、少女はただ首を傾げるだけで、一言も話さない。終いにマスルールの後ろに隠れてしまった。
「この子、話せないんでしょうか」
「いや、話してましたよ。…鳥と」
「鳥とですか…」
ジャーファルはマスルールの言葉に眉を寄せるが、何かそういった能力なのかもしれない、と心の中で頭を振る。
「とりあえず、シンのところへ連れていってみましょう」
マスルールは頷き、歩き出したジャーファルへ続いて足を踏み出す。
が、何かに服の裾を引かれ振り向くと、少女が不安げにマスルールを見上げていた。
「行くな」と、言われているようだった。
マスルールはしゃがみこみ、少女の目を見た。その目にやはり恐怖心はなく、今はただ、不安と疑問に染まっている。
「…一緒に行くんだ。怖がることはない、大丈夫」
マスルールがそう言えば、少女は大きな目を更に見開いてマスルールを見つめた。
慣れないことはするものじゃない、マスルールはそう思い、何処か気恥ずかしさにいたたまれなくなっていた時。
少女がまた、微笑んだ。
「 」
やはりマスルールには聞き取れなかったが、どうしてか、「ありがとう」と言われたのだろうということだけは理解できた。
「…っす」
マスルールは立ち上がる。手を引けば、今度は少女も素直に歩き出した。
数歩離れたところでその様子を見ていたジャーファルは、何があったのか全くわからないといった風に、ただ疑問符を浮かべるだけだった。