デートをしよう




 部活帰り、歩き慣れたしの帰宅路を並んで歩く。

 突然立ち止まったしに驚きつつ、振り向いた。


「どした?」


 夕日を背にしているしは眩しくて、目が痛い。

 どこか思いつめたような表情に、一瞬身構える。


「で…デートしたい、です」

「え、あ、おう……」


 耳に届いた言葉に多少拍子抜けするが、後からじわじわと危機感が押し寄せてくる。

 しは滅多にこういうことを口に出さない。それを言わせてしまうくらいに、俺が待たせてる。


「どこでも良いですから、田中くんとでかけたい、です」

「おう、…いつ空いてる?」

「いつでも」


 ほらきた。

 いつでも良い、どこでも良い…考えるコッチの身にもなってくれよ。


「あのなぁ、」


 欲のない彼女が、わざわざ俺とデートしたいなんて言ってくれる。嬉しくないわけがねぇ。

 だがしかし、だ。


「誘う、っつーのも結構大変なんだぞ。俺だって色々、その、不安なんだからな!」


 ついつい声が大きくなってしまう。これじゃまるで八つ当たりだ。


「不安…?」


 しの声が一層小さくなる。臆病な彼女のことだから、怯えてしまったかもしれない。

 後悔と自己嫌悪と罪悪感にいたたまれなくなって、しから顔を背けた。


「お、俺だってなァ…」


 遅れて、気恥ずかしさが顔を出す。


「…断られたらどうしよう、とか、考えんだよ」


 しの顔は見えない。

 呆れるか、怒るか、彼氏がこんなに情けないと知って、悲しむかも。

 顔を背けたのは俺自身なのに、なんでか文句を言いたくなった。


「……えっと、」


 コツン、と足音がひとつ。しとの距離が小さな一歩分だけ、縮まる。


「大丈夫ですよ、杞憂ですから」


 …キユーってなんだっけな。

 俺はバカだから、意味は思い出せねーけど、その言葉に振り向いて見えたしは、どうしようもないくらいに綺麗で。


「私が田中くんからのお誘いを断ることなんて、ありえません」


 言い切って、いつものように笑う。夕日を背負ったまま笑うしは、なんつーか、かわいい。

 コツン、コツン…足音が聞こえる度に、いつもの俺たちの距離に戻っていく。

 俺の目の前に立ったしは、もう一回、照れくさそうにはにかんだ。


「田中くんは、」


 しが話し始めたから、抱きしめようとしていた腕を慌てて引っ込める。


「もしかしたら私の為に、って、色々考えてくれてるのかもしれない、けど」


 そりゃあそうだ。飯も食えるし夜も寝れるけど、俺なりに精一杯考えてる。


「私は本当にいつでも良い、ですから。いつでも良いし、どこでも良い」


 だからそれがわからないんだよ、って言ってやろうと息を吸い込んだのに、しがそれを遮った。

 真っ直ぐすぎるくらいに俺を見て、本当に綺麗に笑うしに、折角吸い込んだ息をそのまま飲み込む。

 こんなに可愛いやつが俺の彼女なのかと、改めて優越感に浸った。


「ただ、田中くんと一緒にいたい」


 とりあえず抱き締めて、嗅ぎ慣れたしのにおいにくらくらしてから。

 この可愛い可愛い俺の彼女を、夕日にでも自慢しておこうか。



「じゃあ、今から」



デートをしよう



そうやって、二人だけの世界にでも旅立ってしまえばいい
   
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