×突進○ハグ
「牧野さんっ!」
ごっ、という何とも重々しい音を立てて、何かが背中に突進してきた。
…何かとはまあ、声からしてしだと思うんだが。
「あ、間違いました」
「…ええ、でしょうね」
「ごめんなさい、こんにちは宮田さん」
「こんにちは。それで貴方は、今何を?」
相変わらずの低身長で見上げてくる姿は、きっと俺でなくとも可愛らしく映るのだろう。
「何って…ハグ、ですけど?」
言いながら両手を目一杯に広げてみせた。
そんな当たり前のように言われると、まるで俺がおかしいんだと言われているようで無性に腹が立つんですが。
しでなければ即精神病棟行きだ。
「…もしかしなくとも、貴方は牧野さんを見つける度にとっし…いえ、ハグを?」
「はい。何か?」
「………………………………………………いえ、何も」
「えっ、絶対何かある時の間でしたよね今の」
当たり前だ。見た目は幼いと思っていたが、中身まで幼児なのかこの人は。
挨拶がわりに成人女性が成人男性に抱き着くだなんて、どう考えてもおかしいだろう。
「あ」
「どうかしましたか」
「もしかして…宮田さんもされたいんですか…?」
「………は?」
真面目な顔して、なんて阿呆なことを。
「そんなわけないでしょう」
「まあ、そうですよね…」
じゃあ何なんですか…だとかぶつぶつ言いながらまた下らない考えを始める。
ふと、疑問が浮かんだ。
「…貴方は、俺がして欲しいと言えばするんですか」
「え?…もしかして本当にして欲し「違うと言っている」で…ですよねー」
「どうなんですか」
彼女は少しだけ唸ってから、存外すぐに答えた。
「宮田さんが許可して下さるんでしたら、しますよ。ハグ」
「……許可、しましょうか?」
「えっ」
「ほら、どうぞ」
軽く手を広げてみれば、彼女が一瞬戸惑ったように停止する。
「(…面白いな)」
「…っ」
思い立ったようにしが再度突進してくる。今度は痛々しい音もせず、正面から受け止めた。
ぎゅぅ、と、弱く(彼女なりの全力なんだろうが)力がこもる。
「私、人にこうしてもらうのが大好きなんです」
「…貴方は正真正銘の子供ですか」
「ちっ、違いますよ!落ち着くんです!」
「それを、子供だと言うんですよ」
歳の割に小さな身体を軽く抱きしめ返す。し独特の暖かい匂いが鼻腔をくすぐる。
不本意だが、確かに少し落ち着いた。
「俺以外にはやらないで下さい」
「ま、牧野さんもですか?」
「アレは特に駄目です」
「えー…(アレって…)」
「…何で嫌そうなんですか」
「牧野さんも、宮田さんと同じですごく落ち着くんですよ…やっぱりお二人は双子なんだなぁと思いました」
「認めたくはないですが…とにかく駄目です。こうしたいのなら、いつでも俺の所に来なさい」
「ぅ…はい」
何だかんだと言いつつも、俺と牧野さんは双子なんだ。どうせこうして彼女と触れ合って沸く感情すらも、酷似しているんだろう。
だからこそ、譲らない。
「(しは、俺のですからね)」
×突進 ○ハグ
どっちだろうと、俺以外には許さない