大好きだよ




「ランピーランピー、暑いよー死んじゃうよー」


 そう言いながらソファに座っている彼の背中に抱き着く。思った通り、ひんやりしていて気持ちいい。


「わー大変だねー」


 ランピーは興味なさげにテレビを見ているだけ。振り向いてもくれない。


「ランピーランピー、ひまだよー死んじゃうよー」

「俺は暇で死んだことないから大丈夫だよ」

「かまってよー」

「あとでねー」


 一向に動く気配のない彼に、少し寂しくなる。

 折角の(ランピーの)休日だからと言って、彼の家まで遊びに来たは良いけれど……思いがけず暇である。尚且つ暑い。

 クーラーはついているはずなのに、何だろうかこの茹だるような暑さは。


「ランピーは暑くないの?」

「ん、別に」

「そっかぁ」


 冷たいなぁ、主に体温と態度が。

 回り込んでランピーの隣に座る。テレビに目を移すと、珍しく恋愛ドラマなんぞを見ていた。


「流行ってるねぇこの女優さん、可愛いよね」

「そうかな?ナナシの方が可愛いと思うけど」

「……ありがとー」


 くそぅ、さらっと問題発言しやがって。ほんとは顔を背けたいけど、素直に照れるのはなんだか悔しいから、ただじっとテレビ画面を睨みつける。

 私はランピーが好きだ。

 だからこうして、家に通ってみたりもしている。なのにこいつは私の気も知らずに、無神経なことばかり言う。

 まあ、嬉しいのは嬉しいんだけどね。

 彼にとってはただの幼なじみだとわかっているけど、それでもこの関係が、私は嫌いじゃない。


「んー」


 急に頭が重くなる。ランピーの大きく冷たい手の感触。どうしたんだろう。


「なんでスルーしちゃうかなあ」

「ランピー?」

「俺としては、なけなしの勇気振り絞って言ったんだけど」


 テレビでは、男女が仲よさ気に談笑している。台詞なんて頭に入ってきやしない。


「えっと、なにが?」

「もう遠回りしないで言うから、聞き逃さないでね」

「うん」


 どきどきと、心臓の音が大きくなっていく。このまま破裂しそうなくらいに。どうしよう、聞こえてないかな。




「俺、ナナシが好きだよ」




 画面の向こうでは女が、赤い頬で驚いたような顔をしている。

 画面のこちら側でも、大して変わらない状況。


「ラン…わっ」


 彼を見上げようとしたら、頭上の重力が急に跳ね上がった。簡単に言うと、ランピーに押さえ付けられたわけだけど。


「いたいいたい!何すんの!」

「今顔、見られたくない…から」

「は…?」


 思った以上に弱々しい彼の声に、少なからず驚愕する。

 テレビから聞こえてくるのは、キラキラしたBGMと男女の笑い声。


「え、もしかして、照れてる…?」

「……………」

「うわっ!!いたい!いたいってば!」


 重力が倍増しました。いやほんとに、洒落にならないくらい痛いよこれ。首ポロッと取れちゃいそう…それこそ洒落にならないけどね。


「ランピー放してよ、死んじゃうよ」

「…うん、ごめん」


 ふっと頭が軽くなる。やっと解放された首を労りつつ、彼を見上げる。そっぽを向いたランピーの顔は、見たことないくらいに真っ赤だった。


「ランピー、真っ赤だよ」

「ナナシも」

「ランピー程じゃないよ」

「林檎みたいだけど?」

「ランピーなんてゆでだこみたいだよ」

「…どっちもどっち」

「あはは」


 ランピーの手がもう一度私の頭に触れる。今度は重くなくて、そのまま髪をぐしゃぐしゃと撫で付けられる。


「ランピーランピー、」

「ん?」


 伝えておこうか、私の気持ち。



大好きだよ、死んじゃうくらい



死因が君なら、それも良い

   

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