カミサマ




 彼に、初めて殺されたのはいつのことだっただろうか。

 それが日常に変わったのは、一体いつからだろう。

 ハッピーツリータウン、この呪われた街で【死】は意味を持たない。


「ねーねーひでおさん」

「私はスプレンディドだ」

「今日は大事な話があるんですよ」

「君は本当に、人の話を聞かない…」


 もう見慣れてしまった呆れ顔で、この街の英雄はわたしとこうして言葉を交わす。

 それがどれだけ幸せで、奇跡のような事なのか。彼自身はそれを知らない。

 自身が助けた人たちが皆死んでいるなんてことを、きっとこの人は知らないのだから。


「わたしを、助けてくださいな」


 彼と生きたままに会話をすることがどれほどまでに尊いのかを、知らないのだ。


「君を?何故だ」


 わけがわからないと言うように、あなたは首をかしげている。


「ねえ、ひでおさん。あなたなら、わたしを助けられるんでしょう?」

「君が私に助けを求める理由がわからないよ。第一、私は一体どうしたら君を助けられるんだい?」


 ふと、考えてみる。

 彼が、できることならわたしだけのために、パンを焼いて、他愛もない会話をして、そのまま…


「死ぬまで生きていてくれれば、それで」

「…それは矛盾や当り前、ではないのだろうな」

「この街ではね」


 それが難しい事は、わたしが良く知ってる。

 わたしだけじゃない、カドルスもギグルスもトゥーシーも…きっと彼以外の多くの人が、知っている事。

 わたしが死ぬのは良い。ただ、あなたにだけは生きていてほしいんだ。


「君の考える事は、相変わらず良くわからないな」

「良いんですよ、今はそれでも」


 あなたなら、いつかはこの気持ちに気付いてくれると信じてるから。

 例えばそれが、わたしが死んだ後でも構わない。

 そうしてあなたが、少しでもわたしを覚えていてくれたなら、それで良いから。

 あなたがいつかわたしの想いを受け止めてくれたら、それだけでわたしは救われるから。


 その時までどうか、生きていてくださいな。



 会ったことも見たこともないものを、信じるわけではないけれど。

 もしも実在するのなら、こうして願うことを赦してほしい。















カミサマ、この恋を



( どうか、殺さないで )




お題
確かに恋だった
   

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