好きなもの




 折角の休日を、けたたましいベルの音が遮った。

 居留守でも使おうかと思ったが、重要な用事だったら大変だと思い止まる。嫌々ドアを開けると、緑色の人影。


「あ、いた!」


 来訪者を視認した直後、その来訪者であるナッティは勢い良く飛び付いてきた。


「な、ナッティ!?」

「もー、探したんだよー?」


 探すも何も、今日は一日中家にいたはずだが…なんて、他の誰かならともかく、ナッティには言わない。彼に常識なんてものが通用しないことはわかりきっているからだ。

 そんなことよりも大変なのは、彼がこちらに全体重をかけてきているということ。ランピーさんやモールさん程ではないが、そこそこの長身であるナッティが、私に抱き着いた状態で体重をかけてきているのだ。そろそろ危ない。


「ちょ…ナッティ、倒れ…る…っ!」

「おっと」


 抱き留められている私にはどうすることもできず、結局倒れかけた。そこをそのままナッティが踏ん張る形で、なんとか床との衝突を逃れた。

 ……わけだが、


「ねぇ、ナッティ…離し、て…?」

「やーだっ」


 倒れた時のままだから、あまりに身体が密着していて、正直すごく恥ずかしい。

 ナッティは気にすることなく、話を始めた。


「ねぇねぇ、今日は何の日だと思う?」

「今日…?」


 今日は確か、2月14日。世に言うバレンタインデーだ。


「えっと…皆がナッティにお菓子をくれる日、かな?」


 彼が求めているのはこういう答えだと思ったのだが、頭上からは「ぶっぶー」という不満そうな声が聞こえてきた。


「皆からのお菓子はいつでも貰えるでしょー」

「それはナッティだけだと思うけど…じゃあ、何の日なの?」


 抱かれているこっちが窒息死してしまいそうな程に力を込めて、彼はこう言い放った。


「キミがボクのモノになる日!!」

「………はい?」


 い…意味が、わからない。


「ランピーがね!この前ね!14日になれば好きな物が貰えるよって教えてくれたんだ!」

「…あぁ」


 それはたぶん、要するに『バレンタインデー(14日)にはチョコレート(ナッティの好きな物)が貰えるよ』ってことが言いたかったんだろう。


「だからね、ボクね!14日になったら、キミのことを貰うって決めてたの!」

「……ん?え?ごめん…え?」


 未だに理解の及ばない私を置いて、ナッティの中ではどんどん話が核心へと進んでいく。
ガバッと(そりゃもう勢い良く)私の肩を掴んで向き直ると、大きく息を吸い込んで…、




「だからね!ボクと結婚しよう!!」
 

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