私がなくしたものを、あなたは持っているじゃない




 まず始めに、その美しい声に惹かれた。



 鈴のように凛とした細い声が私の名を呼ぶ度に、心臓が血液が内蔵が、まるで踊り狂うようだった。

 次に、真偽を見極める鋭い瞳。ぴんと伸びた背筋。儚くも頼もしい後ろ姿。何一つとして恐れることをしない、強気な姿勢。

 彼女を全てが私の思考を奪い、私の全てを染め上げた。

 瞬く間もなく、私は彼女に恋をした。





「その一、空を飛ぶこと」


 二、目からビーム。

 三、馬鹿力。

 四、無駄に丈夫な身体。

 五、ダサいコスプレ。


「以上を改善するなら千歩譲って付き合ってあげてもいいけど、どうする?」


 そうして数年間想いを寄せつづけた女性に今日、意を決して告白してみたのだが。

 返ってきた返事がこれだ。内心、開いた口が塞がらない。


「…それらができなければ、ヒーローとして活動できないのではないだろうか」

「そのつもりよ。だって私、ヒーローなんて嫌いだもの」

「そ、そうなのか……いやしかし、ヒーローでない私は最早私ではないと思うのだが」

「そのつもりよ」


 彼女は臆さずに発言するひとだ、それは知っている。寧ろそういったところにこそ、私は強く惹かれていたのだ。

 しかし今まで私は、我ながら、自分が彼女と比較的仲の良い部類の人間だと思っていた。だがしかし、だ。彼女は果たして、以前からこんなにも辛辣な物言いだっただろうか。

 私が彼女を愛しているから、彼女にも私を愛してほしい。そう願うことは、至極自然なことだと思う。だからこそ彼女が放った細く真っすぐな言葉で、私の心は、少しだけ折られてしまった。



「だって私、貴方のことが大嫌いだもの」
 

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