誤警報
げ、限界だ。
食べても食べてもケーキは減らず、やっと四分の一程度食べ終わったところで、私の胃は音を上げた。
どうしてこんなに大きく作ってしまったんだろうと、激しい後悔の念に駆られる。元々ホールケーキなんて食べようと思ったことがないし、趣味で作りすぎたお菓子も、今までは全部ナッティが食べてくれていた。そんな私には四分の一が限界だった。
これ以上食べたら確実に戻してしまいそうだったから、諦めてフォークを置く。ふと窓を見ると、外はもう日が落ち始めていた。
そして、チャイムが鳴った。
けだるく向かった玄関の、開けた扉の前にいたのは、見慣れた黄緑色の影。
「こんばんわ!」
「ナッティ…?」
あまりに予想外で、ドアノブに手をかけたまま固まってしまう。昼に会ったナッティとは違う、見慣れ過ぎた彼の姿。
お菓子を模したアクセサリーに、くるくるとした長めの髪。深い隈は跡形もなく、左目はまるで飴玉のように眼球を転がっていた。
いつかのように、彼が抱き着いて来る。途端、私を包む独特の甘ったるいにおい。
「ねぇ、ねぇ」
耳元で聞こえる、楽しそうな声。
変わらない、ナッティの笑顔。
「キミのケーキが、食べたいな!」
フォールス アラーム
糖尿病で死ねるなら
彼はきっと本望です
彼はきっと本望です