誤警報
手に下がる白い箱はずっしりと重たい。そのケーキを見ていたら、自然にため息が出た。
(これ、どうしようかなぁ…)
ナッティのためにと思ったから、大分大きめのホールケーキにした。彼以外に甘党の知り合いなんていないし、やっぱり自分で食べるしかないのか…そう考えて、また静かにため息が漏れる。
自宅に着いて、左手で鍵をあけるのに苦戦しつつ、帰宅する。重たいケーキ箱をテーブルの上に置いて、同時に思考の外に追いやる。受話器を取った。
「……あ、もしもしスニッフルズ?ナッティのことなんだけど」
ナッティとの会話に出て来たスニッフルズに話を聞いた。彼は片手間のように話してくれたけれど、その声はどこか満足げだった。
『ナッティにお菓子をあげたりしませんでした?』
「ケーキをあげたけど返されたんだ、悲しい」
『間違っても無理に食べさせたりしないで下さいよ、僕とナッティの努力が水の泡になるのは嫌ですから』
「うん…その方が彼には良いことなんだろうね」
この呪われた街に住む私達でも、寿命に逆らうことはできない。以前のナッティでは、いくら事故から逃れても糖尿病で早死にしてしまうだろう。それよりは、ゲームに浸る日々の方がましなのだと信じたい。
そうわかっていても、寂しい。いくらお菓子を作ったところで、もう美味しそうに笑顔で頬張る彼を見ることはできないということだ。まるでナッティとの繋がりが消えてしまったようで、悲しい。
『…まあ、全くお菓子を食べないとはいえ、ナッティは相変わらず貴方のことが大のお気に入りのようですから。これからも構ってやって下さい。彼は僕一人じゃ手に負えない』
そんな私を気遣うように、電話の向こうのスニッフルズは自嘲気味に柔らかく笑った。
「うん、ありがとう」
『彼をどうか、よろしくお願いします』
「うん…じゃあね」
そう言って電話を切った。テーブルにお皿とフォークと、死なないように気をつけながら包丁を出す。
さぁ、ケーキを食べてしまおう。