私がなくしたものを、あなたは持っているじゃない
心臓は折れたりしないわよ。潰れてあまりの不快さに目を閉じて、また目が覚めるだけ。
そう言ったら彼は悲しそうな顔をして、どこか曖昧に頷いた。
「君を愛しているんだ」
それは残念。貴方の愛は私に向いている限り報われないわね、可哀相に。
彼の事を特別嫌いだと認識してはいなかった。…まあ、かといって仲が良いわけではないけれど。
どちらかと言えば気に入らない、馬が合わない、生理的に受け付けない。そんな感じ。いい歳こいてヒーローごっこに夢中なんて、見てるこっちが恥ずかしくなってくる。
でも仕事はしっかりするし、ごっこにしても、あの正義感は賞賛に値するとは思う。…その結果、周りがとんでもない迷惑を被っているとは、全く気付いていないようだけど。
ほんの数分前までは、そんな微妙な印象だった。そう、"だった"。
今では確実に、"嫌い"ということで意見が固まってしまったわけだけれど。
「それで、私にどうしろって言うのかしら」
「私を愛してくれないか」
「それは無理ね」
貴方が貴方であり、自称ヒーローである限り、不可能だわ。私はそう即答する。
それなのに彼は、まだ納得してくれないらしい。
「なら、私のどこがどう嫌いなのか、教えてくれないか」
ヒーローであること以外に、どこが嫌いなのか、教えてくれ。
そう言った彼の目には、諦めの色が全く浮かんでいなかった。正直私は、彼にそこまで話をするつもりはなかったというのに。読み掛けの本に栞を挟んで、机に置く。
軽く、けれど深く、息を吐いた。