04
ーおい。 頭の上で誰かの声がする。 わたしはここに一人ぼっちのはずなのに。 泣きすぎて幻聴でも聞こえるようになっちゃったのかな。 ぼーっとそんなことを考えていると、声はどんどん強く大きくなる。 「ーおい、おいって!」 ああ、もう、うるさいなあ。 幻聴なら、わたしのことなんて放っておいてくれればいいのに。 なんだか無視し続けるのにも疲れて顔をあげた。 「やっとこっち向いた…」 「ひっ…」 そこには、わたしをのぞき込む男の人の顔。 わたしはついに幻覚まで…と軽くパニックに陥る。 「…っや、いや、」 離れようとしてもうまく立てずに座ったまま後ずさることしかできない。 「ちょ、おい、俺は別に怪しい者じゃ、…これ」 そう言って男の人は、私にハンカチを差し出している。 おずおずとハンカチに手を出してみると、きちんと感触があった。 「…幻覚、じゃ、ない?」 「いきなり幻覚扱いかよ…」 そう言って男の人は、ため息をついた。 最悪だ。 花畑を見に来たというのに、そのど真ん中でうずくまっている奴がいる。 花畑を見るのは今日でなくても構わない。無視してこのまま引き返す方が無難か。 「うっ…ひっく…」 俺が回れ右をすると、そいつの声が聞こえた。 …泣いてる、のか? さすがに泣いてる…女の子、か?をそのまま放置するのは気が引ける。 仕方がない、声をかけることを決心しし、アデルにもらったハンカチを取り出す。 少し早足で声の主に近づくが、未だ顔を上げない。どうやら俺に気づいていないようだ。 なんと声をかければよいのだろうか、歩きながら思索するが全く分からない。 普段こういう役回りはアデルや他の連中に任せっきりだ。 ああでもないこうでもない、と考えているうちに目の前まで来てしまった。 だがまだ気づかない。 「…おい」 散々考えた挙句、結局なんの気の利いた言葉も出てこず、こんな愛想の悪い話しかけ方しかできないことに呆れる。 「っ…ふ、ぇ…」 しかも俺の声は届かない。 「おい」 もう一度繰り返す。が、やはり聞こえていない。 「…おい、」 いい加減聞こえてくれないものか、と思い少し声を大きくする。 「おいって!」 するとようやく俺の声は届いてくれたらしく、そいつは顔を上げた。 「やっとこっち向いた…」 「ひっ…や、いや、」 気づいてくれたのはいいが、思い切り怖がられているのが見て取れる。 俺から逃げようとして立ち上がろうと試みているのだろうが、足が縺れて上手く動けないようだ。 「ちょ、俺は別に怪しい者じゃ、」 ここまで言ってこれは明らかに怪しい奴のテンプレではないかと気づく。 慌てて右手に持ったハンカチを差し出した。 「…これ」 どうにか受け取ってはくれた。そこまではよかった。が、 「…幻覚じゃ、ない?」 まさかの幻覚扱い。 これには流石に溜息が漏れてしまった。 |