03


町に着くと、適当に住人と思しき人に声をかけた。
「ーすみません、俺は旅人なのですが、地図をなくしてしまったんです。此処は何という町ですか」
と、俺にしては丁寧な口調で尋ねると、
「此処は"ソノオタウン"という町ですよ」
そう微笑みながら、物腰柔らかに返してくれた。

今回はどうやらシンオウ内で留まることができたらしい。
偶々俺が声を掛けたその人は、親切にもシンオウ地方の地図をくれた。
その地図によると、ソノオとトバリは大分距離が離れている。
日付を聞くのは怪しまれるだろうと聞くのを躊躇ったため、トバリでのテレポートの暴走から何日経っているのかは分からない。
だが、トバリへの道のりには巨大な山もあるようだし、恐らくアデルがトバリシティを出る前に俺が到着することは困難だろう。

…これからどうするべきか。

まだ頭痛は治まらないし、何処に向かうかも決めかねている現状では、暫くは此処に留まり、考えを纏めてから出立することが最良なのだろう。
だが、ソノオにはジムがない。
つまり、此処に滞在していてもアデルが来るという可能性は限りなく低い。
加えてこの町は、木や花が多すぎる。
まあ、それ自体は、悪いということではないのだが……。
俺は元々木や花等自然は好きだ。
しかし、自然の豊かな町故の、気が抜けるような、如何にも時間の流れが緩やかといった雰囲気が、どうも好きになれない。

ーそれに。
正直なところ、俺は早くアデルと合流したい。
此処でじっとしてどうするか考えたところで、結局いつかは発たなければならないのだから、考えるだけ無駄というものだ。
だが、次に目指すジムは何処にするのか、俺は聞いていない。
そもそも、アデルは次のジムについて考えていたのだろうか…。

アデルの考えることは、長年共にいる俺でも未だに理解し難い。
近いところから回ればいいものを、突然ジムのある街を素通りして別のジムへ行こうとしたり、はたまたその地方のバッチが揃っていないにも関わらず、別の地方に行こうとしたりするのだ。
やはり今回も、不本意だが地道に一つずつ街を回って行くしかないのだろうか…

ーこうして俺が今後どうするのか決めあぐねていると、その人は、行き先を定めるまで、暫く俺を泊めてくれると言ってくれた。
そんなことは悪いと断ったが、
「他に行くあてもないんでしょう?」
と言われてしまえば返す言葉もない。
「ここは私1人しか住んでいませんし、ゆっくりしていってくださって構いませんよ」
「……すみません、宜しくお願いします。」
俺は、その人の好意に甘え、少しの間、お世話になることに決めた。
"キース"と名乗ったその人は、終始微笑を浮かべている優しげな男性で、万一俺がポケモンだと知られたとして、驚きはしても俺に悪いようにはしないだろう。
会ってたったの数分程度だか、そんな風に思わせる不思議な雰囲気を纏っている人だった。

その後、あまり長居をするつもりはないが、少しでも此処で生活するからには多少町を知っておくべきだろうと、一通りは歩いて回った。
自然豊かというのは、空気も澄んで、やはり気持ちの良いものだなと、改めて感じる。

久々にゆっくりと自然を堪能し、先程教えてもらったばかりのキースさんの家へ戻る。
すると、
「まだお昼には少し早いから、ソノオ自慢の花畑に行ってきてはどうでしょう?」
と教えてくれた。
最近は町に子供が少なく、あまり行く人がいないそうだ。
「でも、町に自生している花々よりもずっと立派で広い花畑なんですよ」
と誇らしげなキースさんの言葉を聞き、俺はその花畑へと向かった。


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