02


トクン。差し込んできた強い日差しに、鼓動が鳴る。ゆっくりと目を開けると、見覚えのない風景が広がっていた。

ーここは、どこ?

辺りを見回すと、一面花、花、花。
鼻をくすぐるいい香り。わたし、この花好きだなぁ。色とりどりの花々は、ふふ、と笑いたくなる、不思議な力があるようだった。ひとつひとつの花に顔を近づけて、胸いっぱいにその香りを吸い込むと、なんだか気持ちが落ち着くような気がした。香りを一通り楽しんだあと、周りの花を潰してしまわないように気をつけて身体を起こし、ちょうど花の咲いてない場所へ座る。

それにしても、この場所は、どこなんだろう。
わたしは今まで、何をしていたんだろう。
わたしは、だれ?
…わたし、わたし、は……

「う……頭、痛い」

何も思い出せない。何も分からない。
ただ分かるのは、わたしはポケモンで、今は擬人化をしているみたい、ということ。
でも、それはわたしの頭が覚えている、というより、本能が覚えてるだけ。そんな、感じがした。

何でだろう、何も分からないけれど、なんだか、すごく急いでここに来たような……。
でも、どうして急いでいたのか、何でここに来たのか、肝心な部分を思い出すことはできない。
あぁ、早く帰らなきゃ。あの子がわたしを待ってる。わたしが帰ってこなくて、心配してるかも。

……あの子って、だれ?

「っ…」
あの子のことを考えると、考えるな、目をそらせとでもいうように、途端にズキズキと頭痛が酷くなる。すごく、すごく大切なことだって、そう思うのに。わたしなんかのことよりも、ずっとずっと重要なことだって、思い出せって、心が叫んでいる。

早く帰らなきゃ。帰ったらきっと分かる。
……でも、どこに?

わたしはどうしたらいいのか分からず、途方に暮れてしまった。
帰りたい。でも、何も分からないわたしには帰る場所なんてない。
途端に『独りぼっち』という事実を突きつけられて、底知れない悲しみと寂しさに襲われた。

「……ふ、う…っ」

思わず涙がこぼれ落ちる。だめ。泣いちゃだめ。
だってあの子が、泣いたらもっとつらくなっちゃうから、私もガマンするから、一緒にガマンしようって、そう言ってた。

でもだめ、だめと思っていても涙は止まらない。ぽつぽつと、花びらの上にしずくが落ちては滑って、地面へとこぼれていく。
いっそこのままわたしの中の水分がぜーんぶ涙になって、ひからびて、消えてなくなっちゃえばいいのに。
何も分からないわたしなんて、わたしじゃない。たとえ帰る場所が見つかって、あの子に会えたとしても、わたしはわたしじゃないんだ。
もう、いやだ。何もかも。


ーーあぁ、あの子の言った通りだ。
泣いていると嫌なことしか浮かんでこない。
まるで底なしの湖に沈んでいくみたい。
苦しくて、辛くて、真っ暗で何も見えない、光を失った、怖いところに。


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