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ズキン。激しい頭痛によって、乱暴に意識を引っ張りあげられる。痛みを自覚した途端に、もやがかかったように微睡んでいた頭は覚醒へと一直線に向かった。んん、とその痛みに小さく声をあげ、眉を顰めつつも重い瞼をゆっくりと開ける。
何度か瞬き目を擦って、ぼんやりと焦点の合わない視界がだんだんと開けてくると、そこには一面緑色が広がっていた。木々や花々はあれど、意識を失う前に見ていたはずの都会の風景はどこにもなかった。ずっと同じ体勢で気を失っていたのか、ギシギシと軋む体をなんとか動かしぎこちなくも辺りを見回してみるが、自らのパートナーの姿も見当たらない。
ーーああ、またやってしまった。
見知らぬ風景に、探せどいないパートナー。自分がまた暴走してしまったことを知るには充分だった。

俺は昔から時々、自分の意に介さないテレポートをしてしまうことがあった。原因も分からず、起こる時はいつも突然で、技の暴走を止めることが今に至ってもできないでいる。だが、それよりも問題なのは、自分の行ったことのない場所へもテレポートしてしまう、という点だった。今も、此処が何処なのか、さっぱり分からない。日の光が木々の隙間から射し込んでいるから、夜ではないようだが……。立ち上がって地面に落ちた光を追うように見上げると、また頭がズキリと痛んで眩暈がした。フラリと覚束無い脚で近くの大木まで歩み寄ると、寄り掛かってずるずると座り込んでしまい、自分の軟弱さに嫌気がさしてくる。
俺はいつからこんなに弱くなったのだろう。……答えは、いつから、などではなく?ずっと?だった。あまり昔のことは−それこそラルトスやキルリアだった時代のことは−ぼんやりとしていて覚えていないが、はっきりとした記憶のある頃からはずっと、俺は弱かった。別段バトルが下手だということでも、体調を崩しやすいということでもない。テレポートが暴走した直後だけ、普段では考えられない程身体が言うことを聞いてくれないのだった。頭痛、吐き気、眩暈、腹痛、その時によって違いはあるものの、不調極まりないことだけは共通していた。……そんな中、こうしてテレポートしてきてすぐにあの変な団体に見つかったことが未だないのは、最早奇跡に近いと言っても過言ではない。保護だなんだという名目を掲げて横暴な活動を繰り返すアレに捕まったポケモンたちがどうなるのかは知らないが、ろくな事にならないだろうということだけは想像に難くなかった。口先ではポケモンの繁栄を、などと高らかに語ってはいるが、今更どうこうしたところで近年のポケモンの減少が食い止められるとは到底思えないし、本当にそのための活動を行っているのかも怪しい。……滅びゆく種なのだと、誰かが言っていたが、残念ながら俺もいずれはそうなるだろうと思っている。

そんなことを考えていると気分がじめじめとしてきていけないと思い直し、テレポート前のことを思い出す。今回は……バトル中だった、はずだ。ジム戦直後で疲れていたところをいきなり仕掛けられた挙句、俺はテレポートしてしまった、のだろうか?仕掛けてきた相手のことすらよく思い出せないが、それ以降の記憶は途絶えていることを考えると、恐らくそういうことなのだろう。……また、アデルに迷惑を掛けてしまった。俺もアデルも既に慣れたことと言ってしまえばそこまで気に病むことではないと思われるかもしれないが、それとこれとは別の問題だ。こういうことがあればその度合流しなければならないし、今では俺がいなくても回せるくらいにはみんな強くなったからいいものの、最初の頃は合流するまでの間も随分と迷惑をかけた。様々な機器が発達していて、本来ならば離れていても簡単に連絡が取れるのだが、俺が壊滅的な機械音痴であることと、アデルもあまりそういったものを好かないということで、合流することを一層難しくしていた。それでも、相棒として俺を旅のメンバーから外さないでいてくれることが、俺にとっては心の支えでもある。

考え事をしているうちにじりじりと頭痛は増していき、思考を中断せざるを得なくなる。締め付けるような痛みが、身体の奥底から滲み出てくるようで、慣れたはずの感覚にも意識を奪われていきそうな程だった。ギュッと目を瞑ってじっとしていると、そよそよと吹く緩やかな風が優しく身体を撫でていくのが感じられる。しばらく新鮮な空気に身を任せゆったりと深呼吸をしていると、少しずつではあったが痛みも引いていく。完全には消えないものの、そっと木に捕まり、ゆっくりと立ち上がってみても、もう眩暈はしなかった。しっかり立ち上がると、視界の高さにわずかな違和感を覚えた。先程は余裕がなくて気づかなかったが、目を覚ましてからずっと、俺はポケモンの姿だったようだ。冷静に考えると、バトル中にテレポートしてしまったのだから当然なのだが、そんなことにも気が行かない程に痛みに気を取られているとは……。ポケモンにとって擬人化はあらゆる危険−怪しい団体も含め−から身を守るためにはなくてはならないものだ。元の姿で長く留まることは、それだけ自らを危険に晒しているということになる。自分の失態に内心舌打ちをしながらも、素早く擬人化を済ませ、一先ず滞在できそうな街を探して歩き出した。


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