02


意識が少しずつ浮上する。まだ、もう少し……
でもアデルが起こしに来るまでには起きておかないと……ん?待てよ、あれ、たしか、今はーー

「……はぁ」

そうだ、テレポートしてしまったのだった。今ここに、アデルはいない。思わず溜息が漏れる。寝起きの気分はいつもあまり良くないが、テレポートしてアデルと離れ離れになっている時は尚更気分が上がらない。思ったよりも眠り込んでしまったようだが、と時計を見やると、5時ちょっと前といったところだった。詩花は……まだ寝ているようだ。キースさんが何時に晩御飯にするのかは聞いていないが、まだ1時間くらいの猶予はありそうだ。起こすべきか否か。俺が悩んでいると、ベッドの塊がもぞもぞと動いている。もしかして起きたか?と思ったが、そういう訳ではなく、寝返りを打っただけのようだ。ご飯を食べていた時あれだけ幸せそうにしていた詩花のことだから、眠っている時もふわふわしてるんじゃないか。少し、見てみたい。ほんの出来心で壁側を向いている顔を覗きこんでみた。しかし、俺の予想は悪い方向に外れた。……泣いて、いたのだ。出会った時のような激しい泣き方でこそないものの、静かに涙を流している。俺は、馬鹿か。記憶を失って、頼る相手もなく、元の自分を知っているわけでもない見知らぬ男なんかと行動を共にしなければならないのだ。いくら他にどうしようもなく仕方ないと言っても、不安は尽きないだろう。あんなに涙をぽろぽろ零す姿を見ていながら、何故ほんの少しの笑顔でそれを忘れてしまったのか。自分の能天気な頭が腹立たしくて仕方が無い。うぅ、と小さなうめき声が聞こえてくる。少し魘されているらしかった。眠っていても幸せでないなら、起こした方が、きっと、いいだろう。俺は詩花を起こすことを決めて、そっと声をかける。

「おい、詩花」

「×××……」

なんと言ったのか聞き取れなかったが、さっきよりもさらに苦しそうだ。揺すってでも起こそうか、いや、でもいきなり揺さぶられると目が覚めた時にパニックになりはしないか。ぐるぐると思考を巡らせるも、いい案は思いつかない。……仕方がない、このままでは時間だけが無駄に経っていくだろう。俺は先程よりも大きな声をかけると共に、詩花の肩を軽く揺すった。

「しーはーなー!起きろ!」

「う……ん…」

「し!は!な!」

「ふ……ぅえ……?」

「おはよう」

「あ……きは……?」

詩花は何度目かの声でようやく目が覚めた。瞬きをしてまだ眠そうにしていたが、その目をこすった瞬間、目もとが濡れているのに気づいて驚いたのか、一気に意識が覚醒したようだ。え?え?と声を漏らし、混乱している。俺が起こしたのだから、泣いていたのを見たことは明らかで、俺までなんだか座りが悪い。しかし、そんな空気を打ち破るように、おはよう!と元気な挨拶を返してきた。何か悪夢でも見ていたのか、と口を開こうとしていたな、せっかく俺を気遣ってくれたのだから、わざわざその気遣いを無為にすることもないだろう。おはようという言葉に会話を続けることにした。

「ま、もう夕方だけどな。どっちかって言うとこんばんはの時間の方が近い」

「わっほんとだ……わたし、別に眠るつもりはなかったんだけどなぁ」

「部屋に入ってベッドが目に入ったから寝転がってみたら、気持ちよくて寝入っちゃったとか、そんなところだろ?」

「よく分かったね〜その通りなんだよね……あはは……」

少し恥ずかしそうに頭をかいている。が、まあ結局俺も眠ってしまったわけだし、二人とも事情は違えど疲れていたのだろうから、そこまで気にすることでもない、と思う。

「お前も疲れてたんだろ。俺も少し寝てたし、気にしなくていい」

「うん……でも、これからのこととか、……明葉のこと、とか、話したいことがあるって言ってたし……ごめんね」

なるほど、それを気にしていたのか。たしかにキースさんの家に向かう道中で、昼を食べた後で構わないから話があるとは言った。行動を共にするならば、俺のテレポートの暴走については必ず触れておかなければならない。ないと思いたいが、万が一、詩花といるときに再びテレポートをしてしまったら、コイツでなくても絶対にパニックに陥るだろう。たとえテレポートのことを話していたとしても、混乱や不安を招くことは防げない。アデルや他の奴らは慣れているから今更取り乱したりなどしないだろうが、それはあくまで付き合いが長く経験もーー非常に不本意だがーーあるからであって、それを当然ように考えてはならない。……それに、俺の話を聞いて、やはり一緒にいるのは無理だと言われる可能性だってある。そう言われてしまうと、いくら俺が心配だと思おうが、どうすることもできない。考えてみればとんでもなく無責任な話だ。突然消えるリスクがあるのだから。

「ああ、そのことは……夕食までまだ少し時間はあるし、とりあえず俺のことだけでも話しておきたい。もし……もし、この話を聞いて、俺と共に行くのは無理だと感じたら、明日、俺と出るフリだけしてさよなら、でも構わない」

「っ、それは……ないと、思うよ?わたしが身勝手に一緒に探してって、言ったんだし……」

「今、話を聞いてもないのに決めつけるな。とにかく、簡単に要点だけ話すから、聞いてくれ」



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