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再会の夜

「薄情だと思うか?」

目の前に座る彼に俺が問いかけると、大きな瞳を瞬かせ、ふるふると首を横に振った。薄暗い蛍光灯に照らされた整った顔は、何時もと変わらず何の表情も乗せておらず、本心かどうかを読むことは全くできない。

「……今、2人っきりだろ。別に俺をたてなくていい」

自力で見破ることを早々に諦めもう一度答えを促すと、やはり表情は変えないままもう一度首を横に振った。

「私たちは、自分でトレーナーを選ぶことは、ほとんど出来ない」

続いて出た言葉はとても先ほどの反応と繋がるようなものではない。一体なんだと言うのか。イライラする心を抑えて、目で先をと訴えかけるが、何かを迷っているのか、なかなか続けようとはしなかった。

「……でも、一度、……手放されて、自由になったら。それはその限りじゃない。”自由”とは、そういうことだと、思う」

彼の表情は、相変わらず微動だにしない。沈黙は言葉を選んでいたためだったと返答から分かったが、視線が泳ぐことすらないとは。……やはり、俺が知っていた彼と今の彼とは、どこもかしこも一致しない。俺が彼と出会った時には既に吹っ切っていたことも分かっているだろうに、”捨てられた”というフレーズを避けて話すことも、不自然に感じられた。今更俺が傷つくとでも思っているのか。

「……そう」
「それは、」

俺が素っ気なく返すと、何かを言いかけて止めて、彼は初めて視線をさ迷わせ、眉根を顰めて俯いた。
その姿に気を良くした俺は、なあに、と努めて優しく問いかける。

「……なんでもない」
「なんでもなくないだろ。今、何か言いかけた」

明らかに何でもないという言葉とはかけ離れた顔をしているくせに、と一転してまた苛立ちがつのり、少し強く問いただした。すると、すっと顔を上げ一瞬合った彼の瞳が、今にも泣き出してしまいそうな、迷子の子どもように見えて、俺は顔を逸らして黙り込んだ。

「……私のことも、……同じ、だから」
「…は」

震える声に思わずバッと視線を戻し彼の顔を覗き込もうとしたが、先程よりもさらに下を向いてしまった表情を窺い知ることはできなかった。
全くわからない。彼のことが、同じ?何がだ。……俺がしている、この悪趣味な復讐のことか?それは、そうだろう。それは俺が決めることで、彼が口出しすることじゃないし、ましてや彼が決めることでもない。

「そんな事を言われる筋合いはないな」

睨むようにして冷たく言い放つと、ヒュッと彼の喉が鳴った。間違えた、とでも思ったのだろうか。今更そんな顔をしたって仕方がない。後悔は先に立って教えてはくれないのだから。俺はガタッと音を立てて乱雑に席を立ち、何の声もかけず部屋を後にした。もう夜も遅かったが、とても眠れるような気分ではなかった。胸がざわついて、じくじくと追い立てるような熱さが渦巻いていた。夜風にでも当たろうと、外を目指して歩き出した。



たった1人になった彼が小さな声を上げて涙を流す姿を、終ぞ見ることはなかった。





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