反天女派
「俺は、天女をこの学園から追い出そうと思う」
あれから少し経った後。
鉢屋は先程よりも随分と落ち着いた様子で、儂を見据えて言った。
それ以上何も言わない辺り、儂がどうするのかを無言で問うているのだろう。
「……今回、儂は静観に徹するつもりじゃ」
「何故だ?お前もここが荒らされるのは嫌だろう」
「愚問じゃな。ここは学舎であると共に、儂の家のようなものじゃ。自らの家に勝手に土足で踏み入られたら誰だって怒るわ。
儂が動かんのはな、儂が学園長の"犬"だからじゃよ」
本当なら今すぐにでも殺してしまいたい、とは敢えて言わなかった。
言ったところで、その言葉は目の前の反天女派……しかも過激派を煽るだけだ。
「ふーん……教員たちもどうせ全員傍観なんだろ?」
「当然。あ奴らはこの事態を生徒だけで解決することを望んでおる。最悪の事態────生徒が死ぬ、くらいの事が起きぬ限りは動かん。
まあしかしのう鉢屋五年生。儂がする"傍観"は他の教員とは違う"傍観"じゃ」
「……どういうことだ?」
「今言った通り、教員共はこのことについては余程の事が無い限り一切口出しをせん。そこで、儂は逆にどちらにも口出しをしようと思うのじゃよ。
まあつまり……天女派と反天女派、どちらの手助けもするということじゃ。」
――――この場合、傍観は傍観でも、限りなく傍観から遠い傍観じゃのう。
そう言って笑うと、鉢屋はいつものように嘲った笑みを浮かべた。
「ふん、アンタらしいな」
「褒め言葉か?」
「いいや、貶してる」
「相変わらずじゃのう」
「それはお互い様だろう?」
所詮、似た者同士だ、こんなときくらい仲良くやろうぜ。
皮肉のように鉢屋が言った言葉を、今度は儂が嘲笑する番だった。
……全く、らしくない。
「ま、相談には乗ってやるから、用があったら部屋に来い。いつでも構わん」
「引きこもりだもんな」
「ふん、言っておけ」
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