負犬と一年
私は弱い人間だ。
あらゆる術で身を隠し、硬い殻の中に一人閉じこもっている。
それを人は、強い人間だと勘違いしている。
硬い殻の中は脆く、赤子が少し触れただけでも簡単に砕けてしまう。
私は、弱い人間だ。
■□■□■
目の前に並ぶは十一の井桁模様。
二十二の丸い、綺麗な瞳が、儂を見上げている。
ああ、何故こんなことになってしまったのだろう。これも全て、半助のせいだ。
「お姉さん、名前は!?」
「…………暁成秋椰」
「なんで浴衣なんですかー?」
「…………二度寝するつもりだったし、これが儂の普段着じゃからのう」
「ナメクジは好きですか〜?」
「…………どちらでもないかのう」
「じゃあさ、土井先生とはどういう関係?」
「コラきり丸!」
「そうじゃのう、半助とは切っても切れぬ間柄というか「お前も嘘を吐くな!!!」
馬鹿め、嘘ではない。ただの嫌がらせだ。
そう言ったら割と本気の拳骨を食らってしまった。
「あ、もう一つ聞きたいんですけど、良いですか?」
「……構わんよ、えーと」
「一年は組、猪名寺乱太郎です!」
「猪名寺一年生か。で、何じゃ?」
どうやらこの子は他の生徒の質問が終わるまで待っていたらしい。なんというか、変に律儀だ。
それにまるで、身に纏う雰囲気が、あの不運の代名詞である某六年生に似ている気がする。
そんなことを考えながら質問を促すと、猪名寺一年生は笑顔で問うた。
「秋椰さんって、くノ一教室の方なんですか?」
瞬間、表情が固まった。
半助がしまった、という顔をしているが、もう遅い。
少年の純粋無垢な笑顔と言葉は、かつての古傷を的確に抉り出していた。
「……儂、は」
なかなか答えない儂を不審に思ってか、猪名寺一年生が首を傾げていた。他の一年生も、同じように儂を見上げていた。
「……儂は、くノ一教室のものではないよ。生徒でもなく、教員でもない。儂は、ここの用心棒として学園長に仕えておる。」
じゃあ、秋椰さんって強いんだ。どう、誰かが言った。
それを引き金に、一年生たちは勝手に盛り上がる。中には尊敬にも似たような目で儂を見ている者もいた。
ああ、そんなに希望に満ちた目で私を見ないでくれ。私はそんなに出来た人間じゃない。
私は全てから逃げた――――負け犬なのだから。
*****
一はのターン。質問の順は上から若旦那、しんべヱ、喜三太、きりちゃん。
なんかちょっとシリアスになりましたが過去話については追々書きたい。
次は多分また土井先生。
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