とある作家の話



5月だというのに、とにかく暑い。
これも、地球温暖化とやらのせいだろうか。

「ボーっとしてないで早く原稿書いてくださいよ」

後ろからせかしてくるスーツ姿の男は、俺の編集だ。この暑さでも衣服を乱さず平然としているなんて、この男は鉄人なんだろうか。

「さっきから手が動いてないですよ。原稿も、一文字も書いてないし……ちなみに何を書く予定ですか?」
「主人公が妖怪とか倒すやつ」
「アバウトですね」
「大体、テスト期間なんだからしょうがねーだろ。学生は大変なんだよ。〆切も、そこらへん考慮してほしいよなー」
「でも、勉強もしてないでしょう」
「…暑くて集中できねーんだよ!」

全部きっとこの異常気象のせいだ。
うん、そうに違いない。

「あ、そういえば。差し入れ買ってきたんですよ、コンビニで」

編集が手に持っていたビニール袋を俺に渡す。

「……お前さ、俺が爽健美茶嫌いって知ってて、わざと?」
「あ、そうなんですかー」
「絶対知ってただろ!?」

立ち上がって爽健美茶を床に投げつけると、急に力が抜けた。
どうやら、この暑さで立ち眩みを起こしたらしい。

「あー…もう原稿とか、奇跡起こって全部終わんねーかな」
「それが人気作家の言う台詞ですか
…まぁいいです。僕、今日は帰りますね」
「おー、わかったー」
「明日また来ますから。それまでに原稿進めてくださいよ」

ため息をつきながら部屋から出ていく編集。
俺は床に無惨にも転がった爽健美茶を拾い上げ、キャップを空けて一口飲んだ。









「……まず」













*****


2011年度夏部誌作品。
お題は『ヨウカイ』『キセキ』『爽健美茶』




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