追憶



机の上に置いてあったスケッチブックを開いてみる。

最新のページに描かれてあったのは、紛れもない僕の顔。

生前、彼女が最後に描いた絵だ。

前のページをめくると、僕と彼女がよく行った公園や、近所の小学生、彼女が買っていた犬。

彼女が好きだったものばかりが描かれてあった。







彼女は、自分の絵だけは描かなかった。

昔聞いたところによると、自分の顔を描くのは、恥ずかしいらしい。

後で見るのも嫌という理由で、写真すら撮らせてもらえなかった。

だから僕が持っている彼女の写真は、卒業アルバムだけ。

しかも、不自然でひきつった笑顔をしているクラスの集合写真だ。

そう考えてみれば、僕と彼女の思い出というものは少ない。

心の中になら山程あるが、形になっているものはほとんど無かった。








コップについであったソーダの氷が、カランと音をたてる。

いつのまにか、僕は筆をとっていた。

そうだ、無いなら作れば良い。

今からでも、遅くはない。

絵を、描こう。

僕と、彼女と、彼女が好きだったものを全部――――








*****


とりあえず一人称って難しい。
お題は『犬』『ソーダ』『スケッチブック』




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