依存



目を閉じると、今でも見えるものがある。
それは大きな大きな方眼用紙。方眼用紙は何故か真っ黒に塗り潰されている。それも星が輝く綺麗な夜空の黒ではなくて、もっとドロドロとした、泥のような黒。
それはかつて僕が捨てた夢。もしも僕が今、あの夢を追い続けていたのなら、僕はまだ輝いていたのだろうか。

「それは無理だね」

驚いて顔を上げると、目の前には幼馴染の顔があった。思わず落としてしまいそうになった温かい紅茶のペットボトルを、慌てて持ち直す。
「……心臓に悪いから、読心術はやめてくれ」
「読心術なんかじゃない、思いっきり顔に書いてあるんだよ」
真っ黒な瞳が、僕を射抜く。僕は昔から、こいつの目が苦手だった。なんだか、全部を見透かされている気がして、怖くなる。
コンビニの自動ドアに張り巡らされて光っているイルミネーションを、まるで夜光虫の大群だね、と彼女は言った。
その時は聞こえなかったふりをして笑って見せたけど、今ではもう笑えなかった。
「そうやって、いつも逃げて、何も知らないふりをする。そんなの、しょせん見栄だ、欺瞞だ、虚構だ。中途半端な気持ちならやめた方がいい、どうせまた同じことを繰り返すだけだから」
気づけば、僕は走り出していた。彼女が、景色が、イルミネーションが、どんどん遠ざかっていく。
息が、苦しい。だけどどうしても、立ち止まりたくはない。




右手のペットボトルは、もう冷たくなっていた。



*****

2011年度冬部誌作品
お題は『方眼用紙』『自動ドア』『夜光虫』

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