白と黒(改訂版)




ここは、とてもとても静かな場所。

全てが灰色のこの場所は、限られた者しか入れない。

ここに在るのは生と死。

ここに居るのは真と嘘。

そして、ここに来るのは――――白と黒。



□■□■□



石で造られた灰色のテーブルに座るのは、二人の女。
――――片方は白い女。彼女は誰よりも正しい者の妻であり、空高くに住処を持つ。彼女の羽は何よりも白く、彼女の周りの全ての光を反射して幾重にも輝いている。彼女が身に纏う衣装は彼女の足の先までをすっぽりと純白で覆っていて、人間の言葉では表現できないほどの美しさだった。
――――もう片方は黒い女。彼女は誰よりも強き者の妻であり、地深くに住処を持つ。彼女の羽は何よりも黒く、彼女の周りの全ての光を吸収して幾重にも濁っている。彼女が身に纏う衣装は彼女の足の付け根までをはっきりと映しだしていて、人間の言葉では表現できないほどの妖艶さだった。
「全く、女も楽じゃないわよね」
「どうしたの、急に」
黒い女が首を傾げると、テーブルの向かいに座る白い女はため息をついた。
「最近主人が五月蝿いのよ。面白いことが起こらない、暇だ……って」
「まあ、そうでしょうね。だってそっちは平和じゃない。」
「最近じゃ、自分の力使おうとするくらい」
「……それは駄目でしょう。それに、忙しいのも酷なものよ?うちの旦那なんて、ここのところずっと働きっぱなしだし」
じゃあどっちもどっちねと頷いて、白い女はテーブルの上に置いてあった紅茶を一口。するとそれを見た黒い女は思いついたように言った。
「ねえ、今何ヵ月だっけ?」
「3ヶ月よ。貴女と同じ」
「子供が産まれたら、ちょっとは旦那もおとなしくなるんじゃないの?」
白い女も黒い女も、腹には小さな小さな子種があった。
二人が子を孕んだのは全く同じ日、同じ時間、同じ瞬間。傍から見れば一見不自然かもしれないが、これはそういう決まりなのだ。人間が生きるために息をするのと同じ、いやこの世界ではそれ以上の常識的なこと。もしどちら側かがこの常識を覆した場合、この世界は崩壊するだろう。
「……それがまた問題なのよ」
「なんで?」
「子供が産まれるとするわよ?でもこの子は主人と同じ力を持つんだから、私、怖くて眠れもしないわ」
「なあんだ、そんなこと。何が怖いの?私なんて、ただでさえ今も何時旦那に裁かれるか分からなくて怖いのに、子供が産まれたら同じように怯えなきゃならないのよ。それに比べたらそっちの方が全然楽じゃない」
「馬鹿ね、そっちは悪いことしなけりゃ裁かれないでしょう。私の方はそうでなくても裁けるのよ、あの人がそうと言えばそうなの」
「……白い犬も黒に変わるってやつかしら?」
「全くその通りね。……ああ、そういえばあの子、どうなったの?」
「あの子って……一ヶ月くらい前に捕まった?」
「そうそう。元気にしているかしら」
「そんなわけないでしょう。貴女には酷かもしれないけれど、あの子なら一週間前……いや、もうちょっと前だったかしら?まあ、とりあえずそこら辺で堕ちたわ」
「あらそう」
「あらそうって……私が言うのもなんだけどあんまり驚かないのね」
 罪を犯したと言っても、ほんの少しまえ部下だった女の話だ。少しは動揺するかとも思ったが、白い女は大して驚く様子もなく紅茶をすすっている。
「だって、元々そんなに神経太くない子だったもの。一週間そこらなら耐えた方じゃないかしら?」
「まあ、確かにそうね。私は違うから詳しくないけど、大体罪人に恋慕を抱いた時点で半分堕天してるわけでしょう」
「そうそう、でも一応設けられた線引きはあるのよ?どこからが普通の天使で、とこからが堕天使かって基準なんだけどね」
「ふーん、なんだか難しいわねえ…………あ、ねえそういえば知ってる?――――」



□■□■□



二人のティーカップが丁度空になるころ。テーブルの中心に設置された、同じく灰色の時計がけたたましく鳴り響いた。
「じゃ、また一ヶ月後ね」
「ええ、それまで二人とも消されないように」
「縁起の悪いこと言わないで」




――――白い女が戻るは高い高い天の上。

――――黒い女が戻るは低い低い地の下。




――――どちらが善くてどちらが悪いか、それは彼女らしか知りますまい。



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