空色パラノイア
「全く、僕には理解しかねるよ」
同じクラスで隣の席の、ぶっちゃけ嫌いなタイプのそいつは、あたしの頭上に座り込んでいた。
「別にあたしだって、好きでこんなとこいるわけじゃないのよ。アンタとは違うの!」
あたしが噛みつくようにそう言うと、鼻で笑われた。やっぱこいつ、ムカつく。
学校近くの河川敷。その橋の上に、あたし達はいた。
いや正確には橋の上にいるのはあたしの目の前にいる彼だけであって、あたしは橋の外枠にぶら下がっていた。
ちなみに彼はあたしが掴んでいる外枠のすぐ側に座り込んでいる。
どうしてごく普通のいたいけなか弱い女子高生であるあたしがこんなことになっているのか、それにはハリウッド映画顔負けのエピソードが――――
「いや、普通に貧乏だからでしょ」
「違う!断じて違う!」
「違わないし。風で飛ばされた靴下追いかけてたらこうなったんでしょ。
てかか弱いって何、凶暴な山猿の間違いじゃない?」
「勝手に人のモノローグを読むな!」
もうなんか、言われ放題だ。こいつが普段無口なのをクールでかっこいいとか言ってる友人に、今のこいつを見せてやりたい。
確かに見た目だけは良いけど、実際話したらただの嫌なやつだ。
「しっかし、そんなに追いかけるまでのもんかね靴下って」
「うるさい。弟の靴下、あれともう一足しかないんだ。」
まだ小学二年の弟に、石田純一みたいなことさせれるか。
心のなかでそう付け加えておく。口に出したらまた色々言われそうだ。
……でも正直、まさかこんなことになるなんて思ってなかった。
目当ての靴下は手を伸ばしてもギリギリ届くか届かないかの距離。真下に広がるのは青色。
風も、強くなってきた。
「そろそろ引き上げた方がいい?」
「馬鹿言わないでよ、まだ靴下は取れて……」
ない、そう言おうとしたとき。
びゅう、と大きな音を立てて風が吹いた。最悪のタイミングの、春一番だ。
「あ」
どちらが発した言葉だっただろう。ギリギリで引っ掛かっていた靴下は風によって飛ばされていく。
それと同時、風圧に押し負かされた私の指は、枠を離れていた。
「ちょ……!」
手を伸ばしても、掴むのは空気だけ。眼前には綺麗な空色。私を見下ろしていた瞳が見開かれる。
ああ、そんな表情もするんだ。
そんなどうでもいいことを思いながら、私は重力へ従って、青色へと落ちていった。
*****
強気な女の子が書きたかった。一応中学生設定。
お題は『重力』『橋』『靴下』
[ 11/13 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]