白と黒
「全く、女も楽じゃないわよね」
「どうしたの急に」
黒い女が首を傾げると、テーブルの向かいに座る白い女はため息をついた。
「最近、主人が五月蝿いのよ。面白いことが起こらない、暇だ……って」
「まあ、そうでしょうね。だってそっちは平和じゃない。」
「最近じゃ、自分の力使おうとするくらい」
「……それは駄目でしょう」
そうなのよねと頷いて、白い女は紅茶を一口。
するとそれを見た黒い女は思いついたように言った。
「ねえ、今何ヵ月だっけ?」
「3ヶ月よ。貴女と同じ」
「子供が生まれればちょっとは旦那もおとなしくなるんじゃないの?」
白い女も黒い女も、腹には小さな小さな子種があった。
二人が子を孕んだのは全く同じ日、同じ時間。
一見不自然かもしれないが、これはそういう決まりなのだ。
「それがまた問題なのよ」
「何故?」
「子供が生まれるとするわよ?でもこの子は主人と同じ力を持つんだから、私、怖くて眠れもしないわ」
「なあんだ、そんなこと。何が怖いの?
私なんて、ただでさえ今も旦那に裁かれるかどうか怖いのに、子供にも同じように怯えなきゃならないのよ。それに比べたら全然楽じゃない。」
「馬鹿ね、そっちは悪いことしなけりゃ裁かれないでしょう。私の方はそうでなくても裁けるのよ、あの人がそうと言えばそうなの。」
「……白い犬も黒に変わるってやつかしら?」
「全くその通りね」
二人のティーカップが丁度空になるころ。
テーブルの中心に設置された、灰色の時計がけたたましく鳴り響いた。
「じゃ、また一ヶ月後ね」
「ええ、それまで二人とも消されないように」
「縁起の悪いこと言わないで」
白い女が戻るは高い高い天の上。
黒い女が戻るは低い低い地の下。
どちらが善くてどちらが悪いか、それは彼女らしか知りますまい。
*****
天使と悪魔の旦那は、神と閻魔。そんな想像。
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