皆が結果にそわそわする中、ついにその時は訪れた。

『皆さん。長いことお疲れ様でした。これより発表を行いますが…その前に一言。採点方式についてです』

ヒーロー公安委員会とHUCが二重の減点方式で今回採点していた。
危機的状況において、どれだけ正しい行動をとれたのかを審査している。

『今の言葉を踏まえた上で、ご確認ください』

目の前のディスプレイに、五十音順に並べられた合格者が映った。

凛は、『や』行ということもあり、後半の方をすぐに見た。

「や…や…八木!あった!」

クラスの皆が結果に一喜一憂する中、A組は一部の者を除いて合格に歓喜の声を上げていた。

その一部の者とは、轟と爆豪だった。
凛はちらっと轟を心配で見つめた。

「轟!!ごめん!!あんたが合格を逃したのは、俺のせいだ!俺の心の狭さの!ごめん!!」

轟を呼ぶ声がしたかと思うと、夜嵐がやってきて、初対面の時同様に地面に頭を勢いよくつけて謝罪した。
まっすぐな彼らしい心からの謝罪だった。

「元々俺がまいた種だし…よせよ。おまえが直球でぶつけてきて気づけたこともあるから」

轟は、これからの道のりエンデヴァーの息子だという事はヒーローを目指していく上で背負っていくべきものだと気付かされた。
彼にとっては、大きな分岐点だったのだ。

「轟…落ちたの!?」
「うちのツートップが両方落ちてんのかよ!」

まさかの結果に、A組の誰もがざわついた。
近くで爆豪の救助の様子を見ていた上鳴は、肘で彼を慰めるようにつついたが、今の彼には何もかもが苛立つ要素でしない。

「暴言改めよ?言葉って大事よ」
「黙ってろ!殺すぞ」

さっそくの暴言。
能力はあるのに、本当にもったいない男である。

「両者ともトップクラスであるがゆえに、自分本意な部分が仇となったわけである。ヒエラルキー崩れたり!」

ドンマイとニヤつきながら轟の肩にポンと手を置く峰田を飯田がさっと彼から離した。
今この場でかけるべき言葉ではない。

「焦凍…」

凛は轟にかける言葉が見つからなかった。
合格した側の自分が何を言っても慰めにはならない。

『えー全員確認いただけたでしょうか?続きまして、プリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますので、しっかり目を通しておいてください。ボーダーラインは50点。どの行動が何点引かれたなど下記にズラーっと並んでいます』

凛は配られた紙を見ると、90点と書かれていた。
救助活動は問題はなかった。
この10点は、轟と夜嵐に説教した時に引かれたのだ。
まぁ、確かに長い時間かけてしまったしなと凛は悔いはなかったが反省した。

凛の中には1つ引っかかることがあった。
この試験、減点方式で加点はない。
つまり、挽回のチャンスはない中でなぜボーダーラインを切った時点で退場させず、最後まで試験を続行したのか。
そんな無駄なことをヒーロー公安委員会がするはずないと思うのだが…。


『合格した皆さんは、これから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場にあります。すなわち、敵との戦闘、事件・事故からの救助など…ヒーローの指示がなくとも君たちの判断で動けるようになります。しかしそれは、君たちの行動一つ一つにより大きな社会的責任が生じるという事でもあります』

元No.1ヒーロー・オールマイトは、その存在だけで犯罪の抑制になるほど大きなものだった。
だから彼が力尽きた今、心のブレーキがいなくなり増長する者は必ず現れる。
均衡が崩れ世の中が変化していく中、今ここにいるセミプロがいずれ社会の中心になる。

『次は、皆さんがヒーローとして規範となり抑制できるような存在とならなければなりません。今回はあくまで仮のヒーロー活動認可資格免許。半人前程度に考え、各々の学舎でさらなる精進に励んでいただきたい!』

目良の言葉は、今後の社会の変化を踏まえたセミプロヒーローたちへの激励だった。
これからヒーローとともに現場を知る立場として、皆深く心に刻んだ。

『そして…えー不合格となってしまった方々。点数が満たなかったからといってしょげてる暇はありません。君たちにもまだ挽回のチャンスは残っています。3ヶ月の特別講習を受講の後、個別テストで結果を出せば、君たちにも仮免許を発行するつもりです』

先ほど目良が言った『これから』に対応するには、より質の高いヒーローがなるべく多く残ってもらいたいのだ。
そのため一次はいわゆる『落とすための試験』だったが、残った100人はなるべく育てていきたい。

『そういうわけで全員最後まで見ました。結果、決して見込みがないわけではなくむしろ至らぬ点を修正すれば、合格者以上の実力者になる者ばかりです。学業との並行でかなり忙しくなるとは思います。次回の試験で再挑戦してもかまいませんが…』

「当然」
「お願いします!」

轟、爆豪、夜嵐に迷いなどなかった。

「やったね!轟くん!!」
「焦凍。待ってるからな」

「すぐ…追いつく」

自分のことのように喜んでくれる緑谷、凛を含めたA組に轟は頷いた。
彼の顔は、晴れやかな顔をしていた。

遠回りにはなるけれど、それが無駄なことなど誰が決めたのだろう。
遠回りする道のりで見つける大切なものを全て自分のものにして彼らはさらに大きくなって追いつくはずだ。

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