BOOOOM!!

突然、爆発とともに大きな音が轟いた。
二次災害か!?いや、確かこの演習のシナリオ…凛がとっさに考えていると

『敵が姿を現し、追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を排除しつつ、救助を続行してください』

この状況はプロでも高難度の案件。
凛が爆発があった方を見ると、救護所の近くで起こったようだった。
救助の要であるため、放ってはおけない。

自分の個性が通用するところの救助は粗方終わった。
なら、対敵の方に適している私はあちらに向かった方がいいかと凛は瞬時に判断した。

「障子!私はあっちに!」
「ああ!こっちは任せとけ」

お互いに目を合わせて、頷きあうと凛はすぐに敵の出撃ポイントに急いだ。
現場に着くと、そこにいた敵の正体はNo.10ヒーローのギャングオルカだった。

「ギャングオルカか!!トップヒーローが相手とは…!」

救護所の方は、今避難を開始している。
一方、ギャングオルカ側は制圧能力の高い轟と夜嵐がいた。
2人の個性ならギャングオルカの弱点もつけるし、協力すれば炎と風で威力はさらに膨れ上がる。2人の間に何があろうと、試験中いや救助中だから割り切って行動するだろうと凛はサイドキックの方を制圧することにした。

しかし、順調に制圧していると轟と夜嵐からこの場に似つかわしくない言い争いが聞こえてきたのだ。
意見がぶつかったというわけではない。
この試験に全く関係ない内容だ。

ヒーローに憧れる夜嵐は過去に、エンデヴァーと会った時に、ヒーローとは思えない目をした彼に、自分の憧れを壊されショックを受けた。
その後、入試で轟に会った時も、歩み寄ったのに同じ目で突き放されたのだ。

一方、轟もあの頃ほどではないとは言え、好きではない父親と同じ目をしていると言われ苛立ち始めていた。
乗り越えたと思っていた父親への憎悪は、まだ燻り続けていたのだ。
そのことに気がついてしまい、試験に集中できなくなってしまった。

「同じだと…ふざけんなよ。俺はあいつじゃねえ」
「俺はあんたら親子のヒーローだけは、どーにも認められないんスよォーーー!以上!」

本来合わされば強力になるはずの個性の2人。
しかし、連携ゼロの2人は逆に打ち消し合ってしまい制圧も何もなかった。

夜嵐の風で轟の炎が浮き、ギャングオルカの攻撃を食らって動けない真堂の方に向かってしまった。

ガァァァン!!

「「何をしてんだよ!」」

間一髪、緑谷が真堂を引っ張り上げて炎を無事に避けたのだ。
それと同時に凛は、2人の間に着地し剣を思いっきり地面に突き立て2人の思考を切り替えるように大きな音を出した。

「今の状況をわかっているのか!救けを求める人たちがこんなにいるんだ!それなのに周りを巻き込んで…被害を抑えるどころか悪化させて!お前らの私情なんて知ったことか!そんなの終わってからやれ!!」

2人はその言葉に、はっとしてようやく周りを見始めた。

轟はやっと思い出したのだ。
入試で会った夜嵐のことを。

見てなかったんだな。本当に。
奴を否定するために、ただそれだけだったから。
ウヤムヤにしたまま過ごしてきた…ここでくるかよ。
過去も血も忘れたままじゃいられねえんだな。


しかし、轟がようやくはっきり確執と折り合いをつけたとしても、試験は待ってはくれない。
ギャングオルカはいつの間にか轟のもとへ近づいていきたのだ。

「焦凍!!くっ…!!」
「凛!!」

凛のもとに大量のセメント弾が飛んできて2人のもとから離された。

「とりあえず…邪魔な風だ」
「ガァ!!」

ギャングオルカは空中にいる夜嵐に超音波を飛ばした。咄嗟のことに避けられなかった夜嵐はそのまま墜落し、サイドキックのセメント弾が当たり身動きが取れなくなってしまった。

「おい…」
「自業自得だ」

轟は夜嵐に気をとられた隙に、ギャングオルカに体を掴まれ、至近距離から超音波を食らってしまった。

「焦凍!夜嵐!」

凛は、数の多すぎるサイドキック相手にギャングオルカのもとへ行くことができなかった。
ここでギャングオルカはもちろん、サイドキックも足止めできなければ、救護所の方へ行ってしまう。

超音波を食らって身動きの取れない2人の頭の中には、先ほど凛と緑谷から言われた言葉が浮かんでいた。

『何をしてんだよ!』

夜嵐は、自分が嫌だったものに自分がなっていたことに。
轟は、自分が過去にしたこと原因でこの自体を招いたことに。

それぞれ自身の過ちに気がつき、だからこそ自分たちが取り返さんと強く思った。


炎と風で閉じ込めろ!!


夜嵐は身体は動かせずとも、遠くにいた分マヒが十分ではなく、威力は落ちているが風を操れていた。
一方、轟は完全に動けないが炎をくべることで夜嵐の威力をカバーしていた。

先ほどまでの行いが消えるわけではないが、2人からは取り返さんとする気迫のこもった攻撃が伝わってきた。

サイドキックたちはギャングオルカを救うために轟を攻撃しようとしたが、氷を発動し当たらない。
炎と氷の同時発動は、まだ動きが鈍るというデメリットはあるが、元々動けない今の状況なら関係ない。

「!!」

ギャングオルカのヘルプにサイドキックが戻ろうと動き出し、凛はさせるかと止めようと動くが彼女の周りにもたくさんいて、身動きが取れない。

「緑谷!!尾白!!」

「怪我人の避難済んだって!すぐに加勢が何人か来るぞ!」

そんな時、緑谷と尾白が加勢として到着した。
彼らだけではない、芦戸、常闇、蛙吹など続々受験者たちが到着した。
今まで凛1人で引き受けていたサイドキックたちが次々と片付いていく。
一気に形勢逆転だ。

ギャングオルカも今は動けない。
と思われたが、違った。
さすがNo.10。自分の弱点は対策済みであり、持っていた水を頭にかけた。
そして、超音波であっという間に炎と風の攻撃を吹き飛ばしてしまったのだ。
並みの敵なら降参するだろうその状況を容易にひっくり返した。

「撃った時には、既に次の手を講じて置くものだ。で?次は?」

動けない自分たちの渾身の一撃だったのだ。
轟と夜嵐に次の手などない。

「「2人から離れてください!」」

2人のピンチに駆けつけたのは凛と緑谷だった。
緑谷は右側からギャングオルカに蹴りを当て、凛は左側から斬撃を繰り出した。
2人とも攻撃を腕でガードされたが、足止めには成功した。

轟は自分を救ってくれた時から変わらない2人の姿に目を奪われた。

ビーーー!!

『えー只今をもちまして、配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますが、これにて仮免試験全行程終了となります!』

「終わったの…か?」

ギャングオルカももう動かない様子から、二次試験が終わったことがわかった。

凛は緑谷と協力して、轟と夜嵐を運び制服に着替え、結果が発表されるその時を待った。

[ 76/79 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -