「昨日話した通り、まずは仮免取得が当面の目標だ」

「「「はい!!」」」

相澤の言葉に皆元気よく返事をした。
しかし、ヒーロー免許というのは人命に直接係わる責任重大な始覚だ。
当然、取得のための試験はとても厳しく、仮免といえどその合格率は例年5割を切っているのだ。

「そこで今日から君らには1人最低2つ…必殺技を使ってもらう!!」

ガラッと教室の扉が開いて入ってきたのは、ミッドナイト、エクトプラズム、セメントスだった。

「「学校っぽくて、それでいてヒーローっぽいのキタァア!!」」

沸き立つA組に、相澤が詳しい話は実演を踏まえて話すためコスチュームに着替え、体育館γへ集合するように指示を出した。

「体育館γ…通称ーーートレーニングの台所ランド。略して『TDL』だ」

TDLはまずそうだ。
皆の心が一致した瞬間だった。

そろそろこの学校訴えられるのではと凛は某ネズミがハハッと笑っているのが思い浮かんだ。

ここは、セメントスの個性を生かして生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できることから台所と名付けられているのだ。

皆が納得する中、真面目飯田はビシッと手を垂直に挙げた。

「質問をお許しください!なぜ仮免の取得に必殺技が必要なのか意図をお聞かせ願います!」

「順を追って話すよ」

くわっと前のめりになっている飯田を落ち着けと相澤はたしなめた。

「ヒーローとは、事件・事故・天災・人災…あらゆるトラブルから救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる」

情報力・判断力・機動力・戦闘力。
他にもコミュニケーション力・魅力・統率力など多くの適性を毎年違う試験内容で試されるのだ。

その中でも、戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目だ。
高い戦闘力とは、状況に左右されることなく安定した行動を取ることでる。
そのため、技の有無は合否に大きく影響する。

「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハナイ。例エバ…飯田クンノ『レシプロンバースト』。一時的ナ超速移動。ソレ自体ガ脅威デアル為、必殺技ト呼ブニ値スル」

「アレ必殺技でいいのか…!」
「なるほど。…自分の中に『これさえあれば有利・勝てる』って型を作ろうって話か」

エクトプラズムの言葉に、感動している横で砂藤が納得といった顔をした。
皆が必殺技の概念を理解したところで、相澤が再び話しはじめた。

「中断されてしまった合宿での『個性伸ばし』は、この必殺技を作り上げるためのプロセスだった。つまりこれから後期始業まで…残り10日余りの夏休みは、個性を伸ばしつつ必殺技を編み出すーーー…圧縮訓練となる!」

セメントが盛り上がり、平地があっという間に山谷の多い地形に変わった。
そこには、エクトプラズムの分身がたくさん待ち構えていた。

「尚、個性の伸びや技の性質に合わせて、コスチューム改良も並行して考えていくように。プルスウルトラの精神で乗り越えろ。準備はいいか?」

「「「ーーー…ワクワクしてきたぁ!!」」」


―――


「八木ハ今後ノ方向性ヲ定メテイルノカ?」

エクトプラズムの問いに、凛は力強く頷いた。

「はい。私の個性は鎧そのものが必殺技みたいなものなので、このまま個性伸ばしと同じく容量の強化と引き出せる威力の拡大。そして鎧の増加を目指していこうと思います。その過程で、それぞれの鎧にあった剣技も磨いていくつもりです」

「ウム。ソレガ良イナ。デハ、私ヲ相手ニ戦闘ヲ積ミ重ネテ行クゾ」

「はい!」

こうして、凛はいろいろな鎧を駆使して技を編み出しつつ、鎧の強化を始めた。
林間合宿の時の成果も相まって、だいぶ容量が高くなっていることに凛は気がついた。

「換装!天輪の鎧。天輪・五芒星の剣」

エクトプラズムの分身に攻撃を加え、消滅した時

「凛ちゃ…八木少女!」

まだ授業中だったと思わず凛を下の名前で呼んでしまいそうになったオールマイトがやって来た。
彼は、まだ腕をギプスで固定しておりまだ万全でないことがうかがえた。

「父さん。まだ療養してないと…」

父の姿に凛は、授業中であることよりも1人の娘として父に心配の声をかけた。

「私も教師なんでね。皆の様子が気になって居ても立っても居られなかったんだよ。心配かけてごめんね。凛ちゃん」

離れる気はないものの、やはり娘からの言葉には弱いのか、オールマイトは素直に謝り、心配に対する感謝の気持ちを込めて彼女の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
凛もそんな彼の気持ちが伝わり、仕方ないと小さく頷いた。

「あ!そうだ!八木少女。何か必殺技で悩んでる事はないかい!?」

授業モードへと切り替えたオールマイトは元No.1ヒーローとして、父親として、ヒーローの卵のために、娘のために張り切って尋ねるが

「いや、大丈夫です。方向性も完全に固まって、だいぶ順調なので」

はっきりと凛は、『ない』と答えた。
彼女なりに父を心配させまいと言った言葉だったが、裏目に出てしまった。

「ああ…そうなのか…それは良かった…」

後ろを向いてトボトボ歩きはじめたオールマイトを凛は不思議そうに見たが、その際見つけてしまった。
『すごいバカでも先生になれる!』と書かれた本が彼のポケットに入っていることを。

「オールマイト!これからエクトプラズム先生と戦闘訓練を行うのですが、よかったらアドバイスをいただけませんか?」

「もちろん!いいとも!!」

凛の言葉に、オールマイトは先程までの暗い雰囲気から一変輝かんばかりの笑顔とともに、ものすごい勢いで振り返った。
そんな父の様子に、凛は苦笑いを浮かべるのであった。

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