9月15日





「月が綺麗ですね」

って、言ったら貴方はどんな反応をするのかな。まあ、きっといつもの軽い口調で「そうだね」なんだろうけどね。

「お疲れ様」
「おつかれさん」

任務終わりの道すがら。
私はラッキーだなあ、と思いながら隣を歩いていた。任務終わりなだけとはいえ、貴方のお誕生日に一緒に過ごせるんだもの。ちゃんとお祝いできそうにないから、せめて里に戻ったら、ご飯でもご馳走してあげよう。

それにしても、残暑が何だか忘れちゃうような涼しい夜だ。
正直、空に浮かぶ月のカタチは中途半端で新月ほどの艶やかさもなければ、満月ほどの見応えもない。それでも、キラキラして美しいものに見えてしまうのは、隣にいるのが貴方だからでしょうか。

「月……」
「ん?」
「月が綺麗ですね」

本当に月が綺麗で、ポロリと口から出てしまった。ああ、しまった!と思ったのだけれど、私が口にしたのは単なる月の感想な訳で、何を慌てることがあるのだろう。
内心ドキドキしながらも、私は平然を装った。

「ちょっと名前」
「ん?」

若干、挙動不審になってしまった私は平然を取り繕った。平気、平気よ。だって、月を見て綺麗って呟いただけだもの。

「その言葉はねえ、男の俺に言わせてちょーだいよ」
「え?」

どう言う意味?と聞いたのなら野暮なのかな。どうしよう、何だか浮ついてるのにドキドキする。

「俺がそれを言うから、名前はこうやって返事してよ」
「へ?」
「死んでもいいわって」
「え!?」
「分かった?」

一気に顔が赤くなってしまって、私は顔を背けた。すると、奴は私の顔を覗き込もうとしてきて更に背ける。だって、茹でダコみたいな恥ずかしい顔見られたら、なんて誤魔化せば良いの。

「名前、準備いい?」
「だ、だめ!」
「なーに、俺は待てないよ」
「聞いた意味ないじゃない!」

頭の上から笑い声が、優しく降ってきた。

「ねえ、名前」

あんまりにも優しく名前を呼んでくれるから、つい顔を上げてしまう。本当に、ちょろいな私。
私の瞳に映る貴方の姿は、見たこともないような真っ赤な顔で。どっちの方が赤いかしら。自分から言い出した癖に、貴方はちょっと口籠もってから。

「月が綺麗ですね」

その低くて、でも気が緩んでしまいそうな優しい声で言われたのなら。幸せ過ぎて。

「……死んでも、いいわ」

言われた通りにしてしまう。

「そう、嬉しいよ」

先程よりも心なしか近付いた気がするのは、都合が良過ぎるかしら。

「いやー、今日は特別良い日だね」
「あ、そうだよ!お誕生日おめでとう!」
「違う、そうじゃないでしょ。名前と俺の大切な日でしょ」

呆気にとられ黙った私を見下ろして、あ、また赤くなったと笑う貴方。本当にずるいんだから。

良かった、私の早とちりじゃないのね。






9月15日 end.

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