初恋E



あれから長い時間が経って、私は大人になった。
カカシ先生と同じ上忍にはなれたけど、火影様になってしまわれて、その存在は何年経っても遥か遠くにあるままだった。

長期の里外任務に出ていたし、大戦も任務先から赴いたから、木ノ葉に戻ってくるのは数年ぶりだ。門をくぐって懐かしい香りが肺いっぱいになる。久しぶりの里の空気は、私の恋心を震わせた。

もう、私のことなんて覚えていないだろうな……。

任務開始時は、ただの隊員でまだまだ子供だった。けれど、1年前に隊長が怪我で任務を外れてからは、唯一の上忍だった私が隊長に任命された。だから、隊長として火影様に報告するのは私の役目で、嫌でもカカシ先生に会わなければならない。会う勇気が私にはとてもない。綱手様、もう少し火影続けてくれれば良かったのに……。
報告書を纏め上げてから私の足は鉛のように重かった。でも、報告しないと怒られるし……。カカシ先生って怒ったら怖いってサクラちゃん言ってたしな……。意を決して、私は執務室に向かった。

ノックをする。

「失礼します」
「はい、どーぞ」

カカシ先生の声が聞こえた。変わらないどこか抜けた優しい声。その優しさが今の私には苦しい。
こんなに重いドアノブがあるのだろうかと開ければ、火影様の椅子に座ったカカシ先生がいた。先生は顔を上げて、入りなさいと手招きした。
隠している左目には真っ赤な写輪眼があると聞いていたけれど、目の前のカカシ先生の両目は黒い瞳をしていた。私が会えなかった間に、きっと沢山のことがあったんだろう。

「六代目、報告にあがりました」
「まーまー、堅苦しいのはなし。久しぶりだね」

ああ、覚えてくれていた。それだけで喜びが体の隅々を駆け巡った。上擦りそうな喉を抑えて、口を開く。

「カカシ先生もお久しぶりです。お元気そうで何よりです」

頭を下げて、頑張って笑ってみれば、先生も満足げに笑った。
そして、私の手にある報告書を受け取った。久しぶりに近くで見る先生は、昔と変わらず素敵だった。いや、前よりももっと素敵になっている。ひと目見て、私の気持ちは、子供の頃の憧れなんかじゃないってハッキリ分かった。だって、ずっと忘れられなくて、ずっと恋しくて恋しくて堪らなかったんだもの。

でも、かなり期待しておくと言ってくれたのは、大人の優しいからかいだったんだと、自分が大人になってから分かった。だから、この長かった初恋は思い出の1ページにしまっておこう。この人を好きになれて良かった。本当にそう思う。

「うん、ありがと。読んでおくよ。で、他に報告することある?」
「特にありません。では、私はこれで失礼致します」

頭を下げて退室しようとドアに手を掛けると、後ろから声を掛けられた。

「ちょっと、俺の期待を裏切る気?」
「は、はい……」
「言われた通りにちゃんと覚悟して、大人になるまで待ってたんだけど……ね」

呆然とする私を見て、なーんだとカカシ先生はガックリと頭を落とした。

「カ、カカシ先生……あの」

カカシ先生は、頭をもたげて私を見つめた。あぁ、喉が震える。情けない声で、久しぶりに気持ちを絞り出した。

「わたし、今でもカカシ先生のことが、好き、です」

ああ、言ってしまった。

また全身の血液が沸騰して、指先は冷たくなった。子供の時から全然成長してないじゃん、私。
先生を直視することが出来なくて、床のシミを見つめていた。先生が、椅子から立ち上がって私の前にやって来た。互いのつま先がくっつきそうなほどに近くにある。口から心臓が出そうになるってこういう事を言うんだ。
カカシ先生は、私の背後にあるドアの鍵をカチャリと掛けてしまった。先生の行動に、頭が真っ白になった。どうしようどうしようどうしよう。

「これで、邪魔は入らないな」

顎に手を掛けられて、半ば無理矢理に顔を持ち上げられた。
目の前の先生は、いつも顔を隠しているマスクを下げている。
初めて見るカカシ先生の素顔は、ずっと綺麗で、ずっと格好良くて、目が離せなくなった。

「綺麗になったね」

あ……と思った時には、唇が重なっていた。
気付かないうちに私の背は伸びて、先生は腰をあまり屈めなくても良くなっていた。そう、やっぱり私は大人になったんだ。
でも、再び私の体はブリキの人形みたいに固まった。叩いたら、コンコンと気持ちいい音が鳴りそうだ。

「待ってて良かったよ」

歯を見せて笑うカカシ先生の笑顔は、私の夢に出てきたものよりも何倍も素敵だった。

「俺も、ずっと好きだったんだよ」

目眩がして、体に雷が落ちてきたんだと思った。
ビリビリと痺れながら、私の心は今日よりも明日、明日よりも明後日、どんどんカカシ先生のことが好きになる。そう確信した。

「あの、カカシ先生」
「何?」
「ずっとって、どれくらいずっとですか?」

カカシ先生はそっぽを向いて、さーて、残りの書類を片付けなきゃね、と分かりやすく誤魔化した。

「わ、私は初めて会った時から好きでしたよ!」

私は教えたんですから教えて下さい!そう言うと、カカシ先生は観念したよとこっちを見てくれた。

「しょうがないねぇ、全く」

カカシ先生でも、こんな顔をするんだ。
これからもっと沢山色んな先生が見られるのなら、私は世界一幸せな女の子だと思う。

「んー、いつからかって言うとね……」

ゴクリと固唾を呑んでカカシ先生の答えを待つ。

「それはね……」

カカシ先生の答えは、たやすく私を驚かせた。


初恋 end.



初恋E end.

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