初恋D




「強くなったな」

私の先生が、私の頭をグシャグシャと撫でる。

二回目の中忍試験で、全員が中忍になって班は実質解散状態だった。担当上忍の先生と組むのは久し振りだった。
ご褒美だと言って、先生は私に甘いものをご馳走してくれた。甘いクリームあんみつを食べながら、先生に中忍になってからの任務の話をした。やっぱり自分の先生が落ち着く。下忍の頃に戻った気分で喋っていると、先生が変わらない優しい笑みで私を見てくれている。それがたった数年のことなのに懐かしい。
先生は頬杖をつきながら、いつもの穏やかな口調で口を開いた。

「なあ、上忍になる気はないか?」
「上忍!?いや、私はまだまだ!!」

必死に否定する私。

「今日の任務見て思ったのもあるがな、カカシがお前のことを褒めてたんだよ」
「か、カカシ先生が!?」
「そうだ。こないだカカシが隊長の任務をやっただろ?お前の仕事ぶりを見て、俺にそう言って来たんだ。まあ、俺もずっとそう思ってたしな」

先生は手品のように上忍推薦書を取り出した。そこには先生の名前と、それから私の名前が書かれていた。

「綱手様に出しておくからな」
「はい!よろしくお願いします!」

それからしばらくして、私は上忍に昇格した。嬉しかった。やっとカカシ先生と同じになれたのだから。


「長期任務、ですか。しかも里外」

綱手様がゆっくりと頷く。

「上忍として、副隊長として任務を任せたい」
「私、やります」
 
火影室を出て、私は里をあてもなく歩いていた。
任務に出ることは嫌じゃない。上忍として一人前になる大きなチャンスだ。火影様に期待されている、大事なチャンス。

嬉しい、嬉しいのに。

「カカシ先生……」

口をついて出たのは先生の名前。そうだ、里を離れたら先生にもっと会えなくなる。上忍になったからって、カカシ先生と、一緒になる機会が増える訳でもなかった。

「あ……」

足が止まって、目線の先に見える後ろ姿。私はこの後ろ姿を、どんな人混みからでも見つけることができる。だって、それは……。

「カカシ先生……」

私の小さな声が奇跡的に聞こえたのか、たまたまなのか。先生が振り向いて、私に気付く。一歩、一歩と先生が私に近付く。
任務に出たら、もう先生に会えないのかもしれない。これが最後になるのかもしれない。カカシ先生に優しくされたら、きっと涙が出てしまう。どうしよう。

「どうした?そんな湿気た顔して」

見上げた空の中に先生の笑顔。
任務の時、きっとこの笑顔を思い出しては何度も夢に見るだろう。
頑張れよと触れてくれる手も、私の耳をくすぐるこの声も、きっと何度も思い出しては狂おしいほどに胸が好きで溢れてしまうだろう。

「上忍昇格おめでとう」
「ありがとうございます」
「お前と組むのが楽しみだよ」
「あ、えっと……それは多分ないです」

長期の里外任務に出ることを、出来るだけ明るく伝えた。
私よりもずっと長く忍として生きてきたカカシ先生だもの。こんなこと、きっと慣れっ子だ。……私は慣れっ子じゃないけど。

「生きて帰って来いよ」
「……はい」
「待ってるからな」

カカシ先生にはやっぱりお見通しみたい。涙がでないように、ぐっと喉を飲みこむ。なんだろう、視界が霞む。

「お前が戻って来られるように、俺が里を守るから」
「私は、先生がずっと里で幸せでいられるように外から里を守ります」
「任せたよ」

カカシ先生の手のひらが私に触れる。触れた場所が熱くなる。カカシ先生の温もりを忘れないように。そこに神経を集中さそる。

「カカシ先生のお陰で、生きて帰れそうです」
「縁起でもないこと言うな」
「そうですね」
「全くだ。待ってるからな」
「ありがとうございます」


それから暫くして、私は木ノ葉の里から離れた。


続く……





初恋D end.

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