06



クシナと来ていたのは、若い女の子が好きそうな可愛いカフェだった。メニューは、どれも写真映えしそうな可愛らしいモチーフと鮮やかな色合いで、名前もクシナもメニューをどれにすべきか長く悩んだ。
結局、名前もクシナもお店で1番人気のパンケーキを頼んだ。名前は苺、クシナはマンゴー。

「こんな可愛い所来るの久しぶり」
「え?デートで来ないんですか?」
「相手は大人だからね、私も一応大人だし。もう少し落ち着いた所ばかりだよ」

カカシが連れて行ってくれるのは、落ち着いていて基本的に値段の張る店ばかりだ。突発的に会った時ならば、安い居酒屋やファミリーレストランに行くこともある。

「へー、そう言えばあの超絶イケメンさんって、何歳なんですか?」

名前は、そう言えば何歳だったかと思い出す。あんまり年齢など気にしていなかった。日本人離れした顔立ちだから、カカシの年齢はよく分からないが、浴衣を選ぶ時に年相応にねと言われた時に聞いたのだ。

「ひと回り違うとか言われたかな」
「ええ、年の差!燃えるってばね!」

クシナは興奮気味に、座ったままピョンピョンと跳ね始める。
確かに年の差かも知れないが、そもそも正しい自分の年齢なんて知らないのだから、もしかしたらカカシと同じ歳かも知れない。そうだ。カカシに年齢を聞いてみるのも良いかもしれない。

「落ち着いて」
「イケメンさんは、名前さんにゾッコンでしたもんね」
「そうかな」
「そうだってばね!」

確かに、カカシの自分への夢中っぷりは凄いものがある。

「こないだね、一緒に住まない?って言われたんだよね」
「えー、同棲良いじゃないですか!」
「うーん、まだ出逢って半年も経ってないし早いよね」
「先生、時間じゃないってばね」
「う……」

いつもの事だが恋愛話をしていると気付けば、クシナの方が先生のようになっている。肉体的にはクシナよりも年上だが、自分にはここ10年の記憶と経験しかないのだ。しかも、この10年間の思い出が失敗だらけで、恋愛は懲り懲りだと思っていたくらいだ。

「そう言えば、クシナちゃんは彼氏出来たの?気になる人いるって言ってたよね」
「名前先生、聞いて下さいよ!付き合うことになったんです!」
「わー!おめでとう!」

クシナは携帯の写真フォルダを見せてくれた。そこには、クシナと自撮りをする好青年を具現化したような男の子。

「え、めっちゃイケメン」
「へへへ」
「名前は?」
「ミナト」
「へえ、名前もイケメンな感じで良いね」
「そうなんだってばね」

そこからは、堰を切ったようにクシナはミナトがいかに素敵な人であるのかを語り始めた。

「名前さんは、イケメンさんのどこが1番好きなんですか?」
「えー、どこなんだろう」

ルックスに惹かれたと言ったら、身も蓋もないのだが、カカシに初めて会った時から沢山の魅力に気付いた。
優しい所、いつも微笑んでいる所、そっと甘やかしてくれる所、色んな場所に連れて行ってくれる所、大人の余裕があるのに好き好き攻撃が凄い所、結構はしゃいだりして可愛らしい所。
最初はかっこいいからデートをしてみたが、それ以上に一緒にいるとドキドキするのに心地良い。今じゃ、顔を見るだけで幸せになる。連絡が来るだけで嬉しい気持ちになる。どこかなんて言われたって、全てが好き。存在が大切なのだ。

「あ、好きなのか……」
「へ?」
「私、好きなんだ……」
「え!自覚無かったってばね!?」

名前は、フォークもナイフも置いた。

「恋愛に関してはさ、私ってからっきしじゃない」
「まあ、それは否定できないですけど」
「だよね。正直、人を好きになるって分からなかったんだけど、やっと気付いたよ。クシナちゃん、ありがとう」
「自覚出来た時は、好きじゃなくて引き返せないくらいどっぷり大好きな証拠なんだってばね。お幸せに」
「そ、そうなの」

クシナがニシシシシと笑い、そっか、大好きなのかと名前は呟いた。

「クシナちゃんも、ミナトくんのこと好きって気付いたのはいつ?」
「初めてミナトを見た時に思ったんです。あ、私、この人と出逢うのを待ってたんだって」
「そうなの?凄いね」
「でしょ。自分でも不思議で、綺麗な髪だねって褒めてくれた時に確信したんです。相手はちょっと天然だから、全然思って無さそうだけど」

クシナは、ミナトと絶対結婚するー!と意気込んでいた。何だか分からないが、きっとクシナとミナトは結婚するだろうと思った。

「あ、もしかして夕方から予定って、デート?」
「ふふふ」
「わあ、楽しんでね」

こうして素直に好きと表現することが、とても大切だと思った。思い返せば、カカシに好きと言ったことないのだ。

「超絶イケメンさんに大好きって伝えなきゃダメだってばね!」
「う、うん。そうだよね」
「きっと不安に思ってますよ!」
「そうかなあ」
「そうです!」







「あ!超絶イケメンさん!」

交差点で信号待ちをしていたカカシは、後ろから指を差された気配がした。振り向くと、いつの日かのクシナが立っていた。

「あ、クシナさんですね。先日はどうも」
「覚えてくれてたんですね!」
「そりゃ、まあ」

クシナを忘れる訳なんてない。だが、そんなこと言ったら気持ち悪がられてしまうと、カカシは曖昧に頷いた。

「さっきまで名前先生とお茶してたんですけど、上手くいってるみたいですね」
「え?名前と会ってたの?」
「はい。名前先生言ってましたよ、超絶イケメンさんのこと大好きだって」
「え!そうなの!」

驚きの余り、思わずクシナに対して敬語を忘れてしまった。有り得ない失態だ。
しかし、申し訳ないがそれ以上に名前が他人に対して自分のことを好きだと言っている事実の衝撃が大きい。花火大会から連絡がなく、かと言って連絡する勇気もなく数日過ごしていた中での朗報だ。やはりクシナは太陽のような人だ。

「名前先生のこと、宜しくお願いします!」
「そりゃ、勿論だけど。どうしてクシナさんが」
「名前先生死ぬほど恋愛に関して不器用だから、超絶イケメンさんみたいな人に出逢えて良かったです」
「不器用なのは昔からだからね。覚悟は出来てますよ」
「え、知り合ったのは最近じゃないんですか?」
「名前は忘れてますけどね、俺が覚えてればいい話なので」
「ひゅー、運命なんですね」

クシナだからつい話してしまったが、目の前のクシナは二十代の女の子だ。年の離れたおじさんから要らぬ話をした所で困るだろう。

「この辺は名前には秘密で。でも、教えてくれてありがとうございます」

クシナが見慣れた笑顔になって、青になった交差点を渡って行く。迷わず走っていった先には青年が立っていた。その青年もカカシには身に覚えがある。思わず目を擦って、じっと凝らした。

「ミ、ミナト先生?」

間違いない、ミナトだ。

クシナとミナト。

不思議なものだとカカシは思った。この運命も神様が定めているのだろうか……と、柄にもなく、考えてしまう。

ミナトとクシナの仲睦まじい後ろ姿を見ていたら、信号が赤になってしまった。幸せそうな2人を見られるなんて、この上なく幸運に思う。

名前に会いたいな、会ってもっと好きと伝えたい。じんわりと暖め合うのも良いし、互いの熱でチョコレートのようにドロドロに溶け合ってひとつになるのも良い。
そう考えた瞬間に、名前から連絡が入る。やはり俺達は運命だからだとカカシは勝手ながら感じていた。




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