人形姫・04


「ごめんね、名前」

木ノ葉病院の一室で、カカシは名前の手を握っていた。
体内のチャクラを乱して掛ける幻術は、名前には効かない筈だった。
だが、イタチの瞳術を切っ掛けに、蓋をしていた記憶が鮮明に蘇ってしまった。一度は向き合った筈なのに、それでもこの記憶は彼女から一度は生きる希望を奪い取ったものなのだ。再び記憶を目の当たりにして、名前は自ら希望を手放してしまった。

綱手の治療でも一度では目が覚めることはなかった。今後、入院して治療を続けながら、少しずつダメージを取り除いて行く以外方法がないと言う。

名前は浅い息を苦しそうに繰り返し、時折、息がクッと止まる。その度に、カカシも息を止めて見守る。三日三晩ずっと、それを続けていた。

どうして……こんなことに。

綱手に頭を下げられたが、綱手がいなければ名前は確実に暁の手に渡っていた。自来也と綱手の判断は正しかったのだ。流石のイタチでも、火影相手に戦うのは無理だと判断したらしい。追手の暗部を撒きながら逃げて行った。

また、何も出来なかった。

結局、綱手や自来也の力を借りなければ、イタチからさえも守る事ができないのだ。激しい無力感に打ちひしがれた。

目覚めない名前の頬を撫でながら、自分がイタチの月読で倒れたことを思い返す。写輪眼でさえ、あの精神ダメージは忍の自分でも耐えられないものだった。それを、忍でない名前が受けてしまったのだ。
今は、綱手がいるお陰できっと治るに違いないと希望があるが、自分が倒れた時には綱手がまだ里に帰って来ていなかった。
名前は、たったひとり家で大蛇丸のチャクラに蝕まれながら、ずっと看病をしてくれていた。どれだけ心細く辛い思いをさせてしまったのだろう。
せっかく、この世界が好きだと、自分と居たいと言ってくれたのに、こんな苦しい思いをさせてしまうなんて。

「……目を開けて」

カカシは、自らの額を名前の額に擦りつけた。そして、そこから動けなくなってしまった。ほんの一瞬でも離れてしまったら、今度こそ名前が風に吹かれた砂のように居なくなってしまう気がした。
イタチの死体が芥に包まれた時、カカシは生きた心地がしなかった。名前を本当に失ってしまうかと怖かった。

それから少しして、名前の頬がポタポタと熱い何かで濡れたのは『オビトが泣き虫だからだ』そう言い訳をした。





「結婚指輪楽しみだね」

名前はジュエリーデザイナーが描いたデザイン図を眺めながら頬を緩めた。砂の国の砂漠で採れる貴重な宝石を何個か埋め、水のように流れる輪郭のリングは、デザイナーが名前をイメージして作ったものだった。

「でも、指輪は任務の時は着けられないよね」
「まーね。任務の時にはチェーンに通して首に掛けるよ」

そうしたら、名前と繋がっているって感じられるでしょ?そう言うと、名前はえくぼを作った。


ハッと目を覚ました。夢を見ていたんだ。
夢だと分かった瞬間に、絶望の二文字がカカシを襲った。
目の前には変わらず眠り続ける名前。おはようと声を掛けてみたが、起きる様子はなかった。

「邪魔するよ」

病室のドアを開けたのは綱手だった。治療の為に、日に3度訪れている。

「私が見ておいてやるから、一旦家に帰りな。もう3日も帰ってないだろ」
「いいえ、俺は大丈夫です」
「馬鹿言え、今のお前はとてもじゃないか名前には見せられないぞ。いつ、名前が目覚めても良いようにしっかりしておけ」

綱手にデコピンをされて、余りの痛みにカカシはやっと立ち上がった。名前がこんな目に遭っているのに、痛みを感じる自分を恨めしく思った。
綱手は、いつもよりも酷い猫背を見送って、先程までカカシが座っていた椅子に腰掛ける。優しく優しく点滴に繋がれた腕を擦った。

「お前がいないと、執務室が荒れる。早く起きろ。あんみつだってまた食べるんだろ?」

名前の額にチャクラを流し込む。名前が早く元気になりますように、最初に比べたら、心拍も呼吸も安定してきたものの、今だに目覚める兆候すらなかった。

正直、いつ意識が戻るか……。

そんなこと、とてもカカシには言えなかった。


ー48ー

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