種目を決める時、幸か不幸か好きな人と組まされることになった。

来月に迫った体育祭。出場する種目を決めるため、クラス内で話し合いが行われていた。そんな最中、クザン先生の気まぐれで「足が速い男女」という一言で私とルフィが選ばれてしまった。
その種目は二人三脚。体育祭ではある程度盛り上がる種目で、カップルで出るのが多いはずだ。そこを敢えて勝ちにいくことで得点に繋げるらしい。そこまで本気にならなくても、とは思うが私の好きな人はやる気に満ち溢れている。
足が速いと自負しているので、リレーのアンカーに選ばれたところまでは別に良かった。でも、好きな人とする二人三脚は話が別。

「ウソップとカヤでいいと思います」

「いや、おれ達のクラスは勝ちにいくんだ」

私の提案はクザン先生に呆気なく却下された。いつも適当なくせに、優勝の団には食堂の1ヶ月無料券が貰えるほか、担任の先生は面倒な後片付けが免除されるらしい。私利私欲のためである。

「なまえー嫌なのか?楽しそうだろ?」

ルフィは後ろの席から前の方に座る私へ声を発してくる。そんなこと言われると、もう断ることはできない。惚れた弱みというのは恐ろしいものだ。

「…わかった、やるよ」

私の答えに、教室に拍手が生まれた。みんなやりたくないのと面白いもの見たさだろう。私は小さくため息をついて、椅子に座った。


放課後、各自練習が始まった。
リレーに関しては走るだけなので特に練習は必要ない。クラス全体でする競技も体育の授業中にするので今はしない。
つまり、二人三脚だ。

「毎日練習しよう!」

「ま、毎日!?」

ルフィがそんな提案をし始めた。嬉しいのは山々なんだけど、毎日なんて心臓がドキドキして死ぬんじゃないだろうか。内心大慌てだけど、素直になれない私は嫌そうな顔をしてしまう。

「なまえ、やっぱり嫌か?二人三脚」

「嫌じゃない…ただ…」

「ただ?」

距離が近いから、なんて言えるはずもなく言葉に詰まる。ルフィは私の顔をじっと見てくるし、顔がどんどん熱くなってきて恥ずかしい。

「体調悪いのか?」

「わ、悪くない…その…慣れてなくて」

「なにを?」

「男の子と、あの、くっ付くのが」

あー消えてしまいたい。熱い顔のまま下を向く。こんなのキャラじゃないし、彼氏できたことないっていうのがバレてしまう。

「なーんだ、そんなことか!おれもドキドキしてるぞ!」

ほら、と満面の笑みで私の手首を掴んできて、ルフィの左胸に押し付けてきた。

───まって、頭が追いつかない。

ルフィの心臓の音は確かに速くて、本当なのは伝わってきた。けど、それは私の気持ちと同じってわけではない。

「わ、わかったから!離して、」

強引に振り解いてしまい、ルフィの顔が見れない。どうしてこんな態度ばっかり取ってしまうんだろう。可愛く女の子っぽい反応がしたいのに。

「けど、顔真っ赤だぞ?」

横を向いた私にそんなことを言うから、ルフィを睨むために顔を見る。すると、ルフィの顔も真っ赤に染まっていた。

「ルフィも赤いじゃん!」

「そりゃ、す、…あー…照れるだろ!」

「なんか安心した、練習始める?」

「切り替え早ェな!」

ルフィも照れているのだとわかっただけで、私の可愛い乙女心も救われる気がした。
私の右足首とルフィの左足首に紐を括り付ける。距離がぐっと近くなり、体が熱くなった。ルフィってなんでこんないい匂いするの、香水?柔軟剤?やばい、いらない雑念は頭の片隅に追いやる。
走り出すにはルフィの肩に腕を回さなけばならない。ぐっと腕を上げ、背の高いルフィの肩下辺りに触れる。

「な、わっ」

「え!?なに?」

突然ルフィが喚くから、反射的に手を離してしまう。

「急に触るからびっくりするだろ!」

「あ、ごめん…」

ルフィの横顔は慌てていて、頬も赤い。ルフィもこうやって照れたりするものなんだと、好きな人の新たな一面が見れて嬉しい。

「触れるよ?」

「お、おう!」

ルフィの肩に手を回す。華奢に見えて意外と筋肉があって、私の体温は急上昇した。それだけで心臓がもたないが、ルフィの腕も私の肩に触れ、左肩に手が見える。ルフィの手が手が手が手が手が手が

「ッ、ル、ルフィ…!!!」

「ん、どうした?ってなまえ!?」

「し、しぬ…」

高熱で倒れそうだ。ルフィに体重を預けてなんとか足に力を入れる。心配そうに顔を覗き込んでくるルフィがかっこいい、愛おしい。

「むりぃ…」

「大丈夫か?」

「ドキドキしすぎて、死んじゃう」

「なっ!!」

みるみるうちにルフィの顔もまた赤くなっていく。
恥ずかしいことを言っている自覚はあった。でも、ルフィを目の前にすると考えるよりも先に口走ってしまうのだ。

「なまえ、それ他の男に言うなよ!?」

「え、?急になに?」

「みんな好きになっちまうから」

ルフィはそう言って私の顔を覗き込むのをやめて逸らしてしまった。言葉の意味がわからず頭の処理が追い付かない。
好きになる?私を?他の男が?じゃあルフィは?好きに────

「じゃあルフィは?好きになっちゃわない?」

私より背の高いルフィを見上げる。変なドキドキで顔の熱さはなくなってしまった。ルフィの口元を見つめて答えを待つ。
するとルフィが手で顔を覆ってしまった。

「え───」

「ああそうだよ!おれが好きになっちまったんだ!だ、だからその顔ほかの男に見せるなよ!?」

「ん?え?ルフィが、私を?」

「好きだぞ、結構前から」

「ええええ!そうなの!?」

開き直ったのか真っ赤な顔でルフィは目をじっと見つめてくる。
まさかルフィと両想いだなんて夢にも思ってなかった私は返事をしなければならないのに喉で言葉が詰まって出てこない。

「体育祭で言おうと思ってたのに……はぁ、言っちゃったじゃねェか!」

「なんで怒ってるの!?」

「なまえが可愛いからだろ!?」

「か、かわ!?」

好きな人に可愛いと言われて嬉しくないわけがない。
足が繋がっているのを忘れて一歩後ずさろうとしてしまい、バランスを崩してしまった。
倒れる衝撃を待つが、私の身体は宙で止まった。ルフィの腕が私を支えていて、見上げる形になる。まるで王子様みたいだ。

「あ、ありがとうルフィ」

「おう、大丈夫か?」

「うん、好きなの。」

「そっかよかった………ん?」

「ルフィが、好きだよ」

ルフィの瞳が大きく開き、まばたきが早くなった。驚いているのがわかる。私だって驚いたんだ、まさか両想いだったなんて。
そのまま固まってしまったルフィは私の身体を支えたままで、誰かに見られたら恥ずかしい光景だろう。

「ルフィ?重くない?」

「このままちゅーしたい」

「ちゅ、え!?」

「この体制のままでいいのか?」

「やだ…恥ずかしい」

「じゃあ、ちゅー」

ルフィの顔が近づいてくる。そんな両想いになって突然、ルフィが強引なのは知っていたけどこんなにも大胆だなんて。
ファーストキスだけど、好きな人と出来るなら嬉しい。でも心の準備がまだだ。

チュッ

私があたふたしている間に、一瞬触れるだけのキスが終わっていた。考える間もないほど一瞬の出来事に頭がついていかない。そのままルフィは倒れかけていた私を直立させた。

「なまえー?」

「え、まって…今…キス…」

「おう、したぞ。おれ初めてで緊張したー」

「緊張!?してた?すっごい早かったよ!?」

キスするって言ってから、ルフィの顔が近づいて唇に触れるまで1秒くらいだった気がする。手際が良すぎる気がしたけど初めてらしい。

「これからよろしくな、なまえ!」

私の大好きな飛びっきりの笑顔で言うものだから、自然と私も笑顔になる。ルフィのすごい所だと思う。

「よろしく!ルフィ!」

まだ恥ずかしいところもあるけど、ルフィとなら乗り越えられる気がした。

ちなみに、本番の二人三脚は1位でゴールできたが、ゴール地点でルフィがキスをしてきて全校生徒に付き合っていることがバレてしまうが、この時は夢にも思っていなかった。

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