キスのその先の話を聞いたなまえとルフィは互いに意識し合っていた。
子供を作る行為だと思ってきたそれは、男女の間では普通に行うものらしい。
メリー号はゆっくりと目的地へ向かっている。常にくっついていたはずの2人は、まだ朝の挨拶しか交わしていないなかった。

「なまえ、あれからどうだ?」

「え、何の話?」

「交尾したのか?」

ど直球。なまえに飛んできた言葉はチョッパーにとって特に恥ずかしいことではない。
彼が悪魔の実を食べる前は交尾なんて日常茶飯事。医学を学んでからも動物にとってそれは当たり前の行動だと知った。
そして、人間だけ子孫を残さなくても、その行為を求め合うことも聞いている。
なまえにその行為のことを教えたのはチョッパーで、その時も恥ずかしがっていたのはなまえだけだ。

「こ、交尾って…そんな簡単に…!」

「なんでそんなに恥ずかしがるんだ?」

「だって、裸だし…初めてだし…」

分からない、と顔に浮かべるチョッパーは首を傾げた。

「心の準備が必要なの!」

「頑張れ!なまえ!」

チョッパーはもう応援することしかできない。なまえは顔を赤くしたまま頷く。
チョッパーはその後、いつも通り診察を進めるしかなかった。

「今日もありがとう、チョッパーくん」

「次は明後日に診るからな!」

「わかった、水飲みに行くけどいる?」

「ううん、おれはいいや!」

チョッパーはなまえに手を振り、今日の結果を記録した。毎日少しずつ増えていくカルテの枚数になまえは目を瞑るしかなかった。
ダイニングキッチンにはいつも通りサンジと、先日この船に乗ったロビンがいた。

「サンジくん、お水飲みたいんだけど…」

「はーい!持って行くから待ってて!」

なまえはなんとなく、ロビンが座っていた席の斜め前に座った。まだ人見知りが出てしまっている。
ロビンは静かに本を読んでいた。なまえは話しかけずにボーッと窓の外の海を眺める。

「お待たせー!なまえちゃん、ルフィ知らないか?いつもこの時間に来るはずなんだが、呼んでも返事がねェんだ」

時刻は15時頃。ルフィは必ずサンジの元を訪れておやつを要求する。ルフィの腹時計はかなり正確で、遅れることなんて今まであっただろうか。

「私も昼ごはん以降見てないの…メリーのとこかな?」

「船首にはいないみたい」

「「え!?」」

突然、ロビンが口を開いたので驚きの声が2人から漏れる。

「能力で見てみたの。」

ハナハナの実はそんなこともできるのか、とサンジとなまえは感心する。
船首に手を生やし、そこに付いた目でロビンは確認することができる。なんとも便利な能力だ。

「私探してくるよ」

「いや、あいつが食いたくないなら別にいいんだよ。あとで文句は言うだろうが…なまえちゃんに探してもらうまでもないさ」

「いいの!暇だし!今日のおやつは何?」

「今日はプリンだけど…ホントにいいの?」

「うん!」

なまえは水を飲んだグラスをサンジに手渡し、ダイニングキッチンを出た。
ロビンの能力で探す方が早いのはなまえも知っているが、会いたい口実だった。
甲板に出るとウソップが釣りをしていて、近づく。

「ウソップくん!ルフィ見なかった?」

「んー、そう言やぁ昼から見てねェなぁ…」

「そうだよね…ありがとう、探してみる」

ウソップと遊んでいないとなると、本当に行き先がわからない。だいたいルフィは甲板か船首にいることが多いのに。
なまえは行き先を失った。男部屋へは入らない方がいいだろうし、ナミの蜜柑畑だろうか。

「あー、なまえ!さっき倉庫の方で音がした気がする…まさかルフィか?」

「そうなの!?ちょっと行ってみる!」

ウソップが思い出し、なまえに声をかけた。
宝や酒樽などが収納されている倉庫はダイニングキッチンの下の階に位置する。
なまえの背中を見送り、ウソップは目の前の海へ視線を戻した。
倉庫に近づくと、音はしなかった。なまえはゆっくりと扉を開く。そこには、樽の上で寝転がるルフィの姿があった。この状況をうまく飲み込めないが、麦わら帽子を顔の上に乗せており、寝ているのだと分かる。
起こさないように近づいて、ルフィを観察してみる。こんなところでいったい何をしていて、しかもなぜ樽の上で寝ているのだろう。

「どうした?」

「わっ、起きてたの!?」

突然声を発したルフィになまえは数歩下がるほど驚いた。ルフィは小さく笑いながら顔の上の麦わら帽子を掴む。

「なまえのこと考えてたらなまえが来てビビった」

「何考えてたの?」

「顔見たいなァって。」

ルフィはししっと笑うと起き上がって樽の上に胡座をかいた。

「んなことより、どうしたんだ?」

「サンジがおやつ出来たのにルフィが来ないから探してて……ルフィはこんなところで何してたの?」

「おれは、考え事」

「ええ!?こんなところで?」

「メリーの上はウソップかチョッパー来るし、1人になりたかったんだ」

「なにか悩んでるの?聞いていい?」

「んーーー、なまえのこと」

自分のことと言われ、なんて返事をしようか迷う。言葉に詰まるなまえにルフィは手を伸ばした。その柔らかい髪を優しく撫でる。

「そんな顔すんな、なまえが好きで悩んでる」

「ん?どういうこと?」

「最近歯止めがきかねェんだ」

なまえはアラバスタの時のことを思い出して熱くなる。キスを何度も繰り返して、求め合った。その続きのことは当時知らなかったが、知った今は止められる自信がルフィにはない。

「それは、私も」

なまえは真っ赤な顔でルフィを見つめ返した。
大きく心臓が跳ねるのを感じる。たった今。歯止めがきかないと話したばかりで、そんな顔で見つめてきて。
ルフィは樽から飛び降りて、なまえの二の腕を掴んで、正面から引き寄せた。ぎゅっと強く抱きしめて、背の高いルフィは覆いかぶさる。

「おれ悩んでるって言ったよな?」

「?、うん聞いたよ」

「そんな顔すんなって、おれは頑張って我慢してるんだ。」

そんな顔と言われても、なまえはただ赤い顔でルフィを見つめただけだ。ルフィからすれば、上目遣いで見つめられれば抱きしめたくもなる。

「見つめるのもダメ?」

「ダメじゃねェけど、可愛いんだ。顔が」

「も、もう見れないじゃん…」

ルフィの腕の力が強くなる。
なまえはルフィの悩みをどう解消したらいいのか分からない。それになまえも同じ悩みを持っている。お互いに意識して、その先を望む心があった。

「そんなに頑張って我慢しなきゃダメかな?」

「ナミが、無理やりはするな、なまえの意思を尊重しろって。」

ナミらしい教えだと思う。なまえが嫌がるとは思っていないが、女側も色々と準備があるし可愛い下着だってしたいだろうとナミなりの配慮だ。
なまえはルフィの肩に手を回して力を込める。

「我慢、しなくてもいいよ。嫌じゃないし、私だって、その…ルフィと続きをしたい」

「なまえ、今顔見ていいか?」

「ダメ、絶対ダメ!」

きっと真っ赤になっているなまえの照れた顔を見たいが、強く抱きしめられているためルフィも無理やり剥がすのは気が引ける。

「後で止めても、聞かねェからな」

そう言った後、ルフィはなまえの首元を舐めた。
柔らかい感触に、なまえの口から声が漏れる。色っぽいというより、くすぐったそうな声。

「ルフィ、ちょっと!」

「あ、やっと顔見れた」

くすぐったくて、なまえはルフィを抱きしめていた手を緩めた。ルフィはその隙に、なまえから離れその顔を見る。
驚いたのはなまえだった。ルフィの顔も赤く染まっていたからだ。

「ルフィも、赤いね」

「そりゃ、照れる」

ルフィは赤い顔を見られないように、なまえの唇を唇で塞いだ。
すぐに離れると思っていた唇は、離れるどころか何度も吸い付いてくる。なまえを逃さないようにしているようだった。

「んぅ、」

時々漏れる吐息にルフィは止められないと悟った。
なまえの手首を掴んで、壁際に追いやる。なまえの背中と壁はくっ付き、壁に手をついた。
逃げ場をなくしたなまえはただルフィのキスに応えるしかない。侵入してくる舌を迎え入れ、絡みついた。

「んっ、ル、」

なまえが何か言おうとしているのは分かるが、ルフィは遮るように唇を押しつける。
何度もキスを交わしたあと。なまえが胸板を強く押してきて、舌も逃げようとしているのでルフィはやっと解放した。

「ルフィっ、ここでするの?」

「確かにここじゃ…ダメだな」

なまえに夢中になっていたルフィは、あれほどナミに言われた「ムード」を忘れていた。
初めては印象に残りやすいからロマンチックに、と念を押されている。

「ごめんな、なまえとのチューが気持ちくて」

「き、気持ちいいの?」

カァッとなまえの顔はより赤くなって照れている。
ルフィはなまえの手をぎゅっと握ってその目を見つめた。

「女部屋、いこう」

なまえは赤い顔を見られないように下を向くが、コクリと小さく頷いた。
それを見てルフィは手を繋いだまま、なまえの先を歩く。倉庫から出る扉を開けると太陽の光が飛び込んできて目を細めた。
倉庫から女部屋へはすぐ着く。幸い誰にも会わず、たどり着くことができた。

「鍵、閉めるね」

「そのセリフ、ドキってするなァ」

「もう、やめてよ」

鍵をかけたなまえの後ろ姿を見てルフィの胸は高鳴る。ゆっくりとした足取りで近づいてくるなまえに向かって手を伸ばした。
なまえがいつも眠るベッドに腰掛け、ルフィは麦わら帽子を側に置いた。

「緊張する…」

「じゃあ緊張なくなるまでキスしてやるよ」

ルフィがなまえの頭を支えながら、口付ける。ちゅっとリップ音だけが女部屋に響いていた。
そういえば何かを忘れている気がするなまえだったが、今はもうルフィのことしか考えられない。

「緊張なくなったか?」

何度かキスを交わした後、ルフィが離れてなまえを見据える。

「まだしてるよ。ルフィは余裕そう…」

顔は赤くなっているが、いつものルフィと変わりないように見える。それがなまえの不安や緊張を増幅させていた。ルフィが「初めて」だということは知っていても、自分はこんなに緊張しているのに。

「おう、イメージトレーニングはバッチリだ」

「イメージトレーニングしてたんだ…」

「かなりしたからな、大丈夫だ」

どんな妄想…イメージトレーニングをしたかなまえは想像できなかった。
男子なら誰でも考えてしまう、好きな人とあんなことやこんなこと、をルフィも念入りに考えただけのことだ。
なまえも考えはしたが、その度に照れてしまってうまくイメージはできていない。未知すぎることだった。

「そのイメージで、次はこうするんだ」

耳元でそう呟き、ルフィはなまえをゆっくり押し倒した。
もう逃げ場などない。そもそも逃げるつもりはないのだが、ルフィの手に挟まれてなまえは見つめることしかできない。
赤い頬、少し潤んだ目、世界一好きな彼女が自分を見つめている。ルフィのしたイメージなどどこかにいってしまった。

「おれ、やっぱり余裕ねェな」

「じゃあ、次は私がしてあげる」

なまえの表情にドキリとした。
下からルフィの首に手を回して、唇を押し付けてくる。かわいい、愛おしい、そんな想いがルフィの頭を支配する。

「どう?緊張、とけた?」

なんだこの可愛い顔。ルフィは言葉が出てこずに黙り込んだ。悶える、という表現が正しい。
何も反応がないルフィの柔らかい頬をなまえはつついた。

「どこまで、なまえを好きにさせるんだ?おれは、死にそうだ」

ぎゅーーっと強くルフィはなまえを抱きしめた。嬉しい言葉に、なまえも強く抱きしめ返す。

「死ぬのはダメだけど、もっと好きになってほしいよ」

「まだァ!?おれほんとに死ぬぞ!」

「死ぬ手前まで好きになって!」

「もうなってるって!」

お互いに顔を合わせて笑い合う。他人が見ればバカップルと言われても言い返せないだろう。

トントンッ

そこで、扉をノックする音が聞こえた。

「なまえ?いるのー?鍵かかってるけど」

「あ、わ、ナミちゃんっ!?えっと…」

「ナミ、タイミング最悪だぞ!」

ルフィはすぐに立ち上がり、側にあった麦わら帽子を手に持つ。
なまえは少し寂しい気持ちを抑え込み、あとを追った。

「まさか…ルフィ?もしかして、お邪魔だった?」

「おう、邪魔だった」

「って、するなら言いなさいよ!邪魔なんて絶対しないのに」

ルフィは扉を開けると、怒り顔のナミが立っていた。確かに、勝手に女部屋でしようとした2人が悪い。だが、ルフィは不機嫌そうだった。

「ごめんね、なまえ。サンジくんが、夕飯できたって」

「あ、そういえばプリン…」

「プリン!?!?今日、プリンだったのか…」

「もう夕飯の時間よ、プリンは無し!」

「えええっ、おれのプリン…」

「みんな待ってるわ、早く!」

ナミは足早にダイニングキッチンへ向かっていく。
なまえも足を踏み出そうとすると、ルフィがその手首を掴んで引き寄せた。

「んっ、ルフィ!?」

触れるだけのキスを交わし、ルフィは麦わら帽子を頭に乗せて、ししっと笑う。

「また今度な。」

その仕草で、またなまえはルフィを好きになる。どんどん増して困っているのはなまえも一緒だった。
ルフィはなまえの手を握って、歩き出す。
どちらが熱いのか分からない熱が、握り合った手を覆っていた。

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