※IFストーリー※
※メンバー消去ヒロインが、もし生きてたら…2年後※




ーーー優勝賞金1億ベリー

そんな大金を手にすれば、普通遊んで暮らしたいと思うだろう。
けれど海賊達は普通とは違う。毎日働いて稼ぎがあるわけではないし「奪う」「盗む」が彼らの仕事のようなもの。それでないと、航海はやっていけないだろう。

たまたま、この島に上陸していた3つの海賊達がいた。麦わら海賊団、ハート海賊団、キッド海賊団。かつて超新星と呼ばれた同じ時期に世間を騒がせた3つの海賊達。
そしてたまたま開催されていたある大会。優勝したあかつきに貰えるものこそ、1億ベリー。

「さぁ!この賞金を手にするのはどのチームだー!」

うおーーーっと盛り上がる会場。包まれる熱気になまえは無意識に肩を縮こませた。集まる視線は何千個あるだろうか。
出場者達はステージの中央に集められ、そのステージを囲むように客席がある。空席はなく熱い歓声が飛び交っていた。

「さァ!ルールのおさらい!出場者達がバトンを繋ぐレース!で!も!ただのレースじゃぁないよ!障害物やお題をこなしながら、一番最初にゴールしたチームの勝利!1億ベリーも夢じゃぁないよ!じゃあ出場者は順番を決めて、係に伝えてくれ!」

ステージの上空。飛行船に乗りながらそう叫ぶのはこの島の王らしい。この夢のような企画を毎年一度開催しているのだとか。
こんなに金があるのなら国民に使えと不満が出てもおかしくないが、国民たちは自分だけ1億ベリー手に入れる方が良いと考えた。その為に毎年決して少なくない金を払い、この大会に参加する。
仕組みは、国民全員から集めたお金が1チームに分け与えれるというもの。
国王や国の財政には損もないし、国民の団結力が上がる。来年こそ自分たちが…という夢を抱きこの国は成り立っていた。

「順番、どうするの?」

「よし!おれが決める!」

ロビンの問いに、ルフィは勢いよく手を上げた。ナミとウソップの顔は青くなっていく。

「「不安だ……」」

「んー、どうしよっかなぁ」

この場にいるのはサニー号に残ったフランキー以外の9人。ちょうど出場者も9人と決まっていて、都合が良かった。ルフィはまずなまえを見る。

「1番!なまえ!」

「え!?1番!?……頑張ります」

まさか1番に指名されると思っていなかったなまえは緊張で胸がザワザワし始める。

「2番ゾロ!3番ウソップ!4番ナミ!5番ブルック!6番チョッパー!7番ロビン!8番サンジ!最後おれ!」

「いいとこ取りやがったなルフィ」

「なんだよ、サンジ最後がいいか?」

「いんや、8番でいい。ロビンちゃんのあとはおれに任せろ」

目立ちたがりのルフィは最後は譲れない。
ナミが決まった順番を係に伝えている間、なまえとウソップはぶるぶると震えていた。

「怖いね、ウソップくん」

「怖いどころじゃねェ…どんな競技があるか分かんねェのに…なまえ気をつけろよ…」

「もし何かあったら助けてね」

「それはルフィに言ってくれ!」

膝が笑っているウソップは助けに行けそうに無かった。
仲間にもし何かあったら全員駆けつけるが、なまえに関して1番早いのはきっとルフィだとウソップは分かっている。

「1番手の方!こちらに集まってください!」

係の声が聞こえ、なまえは一歩踏み出す。スタートラインに立たされ、他の人たちもそれぞれの場所へ向かう。
なまえがそこで大きく息を呑んだ。
スタートラインに立った面子を見れば、「意外」の一言。なまえが抱えていた緊張が倍以上に跳ね上がった。

「ユースタス屋が1番とは計算が狂ったな」

「お前らアホは最後にいくと踏んで1番を選んだが、麦わらだけとは」

背が高く、睨み合っているローとキッドの間に挟まれ、なまえは縮こまる。まさか、1番手に船長2人が出てくると思わない。

「なまえー!負けんなよー!!」

「む、無理ィ!!」

ルフィがなまえに手を振るが、振り返す余裕などある訳がない。
ローとキッドの視線がなまえに向く。上から下まで全身を見られ、ゆっくりと目を逸らされた。

「あ、あの……お手柔らかに……」

「「女だからって手加減はしねェ」」

「同時に言わなくても……」

なまえは逃げるようにルフィに視線を向ける。まだ手を振り続けていて、満面の笑みを浮かべていた。
戦いの場であればなまえを心配するのだが、あの2人がなまえに危害を与えないとルフィは確信していた。
何度かこの海で出会ってきて、行動を見てきた。無差別に殺すことなどあり得ないとその行動が証明してきた。

「さァ!いよいよ始まるよ!第一種目の発表ォ!」

ステージの中央に設置されたモニター。それは客席からでも見やすいように何個か設置されており、色んな角度から国王を映していた。

「他のチームの1人と二人三脚でバトンを渡してくださーい!!よーーーい、スタート!!!」

突如始まったレースに出遅れたのはロー、キッド、なまえの3人。国王が告げた種目をまだ咀嚼できずにいる。
この大会の参加者はここの島民がほとんどで、知り合い同士も多くすぐに二人三脚のペアを作り始めてしまった。
こんなレースだとは聞いてない、という文句は言っている暇がないようだ。

「なまえ屋!!」

「麦わらの女!」

「「おれと組め!!」」

二人から睨むように見られ、なまえの顔色が変わる。
ローもキッドも絶対に二人で組みたくないようで、選択肢はなまえしかなかった。もし1番手がなまえではなくルフィだったら、今頃争い合っているだろう。

「オイオイ、他は走り出してる!」

「なまえ屋、早くしろ!」

両手首を掴まれて、頭が真っ白になる。
一見、なまえを巡って繰り広げられる恋愛小説のようだが、状況は殺伐としていた。ローとキッドは睨み合い、なまえの手首を掴んで離さない。

「なまえから手離せ!」

ルフィの声がして、なまえはその方向へ目を向けた。ルフィがゴムの手を伸ばして飛んできたのだ。
この3人が集まると碌なことがないので、嬉しい反面なまえはため息が出そうになる。

「麦わらァ、てめェは関係ねェ!消えろ!」

「なまえはおれのだ!触るな!」

「嫉妬するとは、見苦しいな。いいから、なまえ屋を貸せ!先を越されてる」

ローは先頭を見る。足は遅いが、こうしているうちに彼らは2番手の方へ近づいていた。今ならまだ追いつける。

「麦わらチーム!9番!イエローカード!退場になりたくなかったら元の場所に戻ってくださーい!!!あと、1人足りないので3人で頑張ってねー!」

国王の声が聞こえ、なまえは気を失いそうになる。まさか、3人で向かえと言うのか。
ルフィはゾロとサンジに引きずられて、元の位置に戻らされた。
なまえは恐る恐る2人の顔を見てみる。眉間に皺がより、機嫌が悪いようだ。

「仕方が無ェ。ユースタス屋、おれに触れるなよ」

「てめェこそ、足引っ張るなよ」

ガシッ、と強い衝撃がなまえの肩に降りる。2人の腕がなまえにのし掛かり、重いどころの話じゃない。

「私真ん中?」

「なまえ屋は足に紐を大至急巻け」

なまえは反抗することなどできず、自分の両足と、ローとキッドのそれぞれの足を紐で巻き付けた。

「行くぞ!」

「あ、ちょっと!まっ!!」

合図も無しに、ローはなまえと繋がった左足を、キッドはなまえと繋がった右足を前に出した。
当然、なまえは前に転びそうになるが、2人の腕に支えられた。

「何してる!?」

「どんくせェなお前」

「私、両足一気に前に出せないよ!!」

普通の人なら全員で転んでいただろう。ローとキッドのずば抜けた筋力によって耐えただけだ。

「「あ……」」

「掛け声をつけて、ちゃんと息を合わせないと無理!」

そこでローとキッドはようやく気がついた。
なまえの両足に付けられた紐を見れば分かることだった。
ローが右足を出し、なまえはキッドと繋がった左足を出して、キッドも右足を出す。という話し合いと掛け声が無ければ不可能だ。
だが、話し合いなど煩わしいし、お互い協力したくない。

「3人なんて最初から不可能な話か。」

「トラファルガー、てめェは紐を切れ」

「あァ?指図をするな!ただ、もうこれしか方法はねェ。」

「あー……てめェと協力したくはねェが……仕方ねェ。」

ローとキッドの言っている意図がわからず、なまえは首を傾げるしかない。
ローはなまえと繋がった紐を切り、背中に手を回す。キッドはなまえの膝裏から手を伸ばして、力を込めた。

「え、え!?キャー!!!」

思わず漏れた悲鳴は会場に響き渡る。ローとキッドはなまえを持ち上げて、身長が高いキッドの肩に座らせたのだ。
国王が何も合わないと言うことは、ルール上1人を肩に乗せても問題ないということ。
客席からは熱い声援があがり、盛り上がりを見せる。

「お前ら!!!!なまえに触るな!!!!」

ルフィの声が聞こえるが、なまえはそれどころでは無い。

ーーーー普通に怖かった。

ローはさりげなく背中を支えてくれているが、今から2人は二人三脚をするのだ。落ちる可能性も十分にある。
ルフィはきつく拳を握った。なまえが他の男に担ぎ上げられている。その状況が気に食わない。

「こうすれば良かった話か。」

「オイ、トラファルガー!!繋がった足から行くぞ!」

「指図するな!!繋がった足から出せよ!」

「おれが先に指図した!」

「次言ったら殺すぞ!」

「あァ?やってみろ!」

「喧嘩しないで!行くよ!せーの!」

なまえの声に合わせて、2人は繋がった足を出して交互に歩いていく。揺れる感覚に緊張しながら、なまえは声を出した。

「いち、に、いち、に!」

ローとキッドの顔が赤いのは、恥と屈辱からだ。1億ベリーのためとは言え見せ物状態の今を後悔する。賞金を獲得した日にはうまい酒でも飲んでやろうと二人の思考は一致していた。
さすがルフィと並ぶ懸賞金をかけられている二人だけあり、速度はどんどん上がっていく。

「きゃっ!」

速度が上がるたびに揺れて、なまえは二人の肩を強く掴んだ。

「ROOM」

ローの能力で結界のようなものを展開する。

「ーーーーシャンブルズ」

瞬間。先頭を走っていた人たちは小石と入れ替えられ、後ろに戻されてしまった。
また、国王は口を出さない。客席からブーイングが起こるが能力を使ってはいけないと言うルールは存在しないようだ。

「おっとー!!戻されてしまったー!!!能力者だったのかー!」

王はそう叫んだ。どこか嬉しそうに見える表情は瞬時に真顔に戻る。

「なまえ!早くバトンを!」

「アイアイ!キャプテーン!」

「キッド!!早く!」

ゾロ、ベポ、キラーが待つスタートラインに近づいてきた。紐を切らなければバトンを渡せない。

「磁気(パンク)ピストルズ」

キッドの能力で足首の紐に小さな釘を打ち込む。ローと繋がった紐は無事に切れた。

「ROOM……切断(アンピュテート)」

なまえは安全に降ろされ、ほぼ同時に2番手へとバトンを託す。
その瞬間、なまえの体に何かが巻きついた。

「わっ!!!」

そのまま飛んできてなまえを抱きしめたのはルフィだった。巻き付けられたのはルフィの腕だ。

「なまえ大丈夫か?どこ触られた?」

「大丈夫だよ、ローさんは背中支えてくれてたし、キッドさんも優しく落ちないように掴んでくれてた」

「…………ありがとなお前ら」

「「不満そうな顔すんな!!」」

ルフィの顔が明らかに不服そうで、ローとキッドがツッコんだ。
なまえを強くぎゅーっと抱きしめて、頭を撫でる。

「チューしたい。あいつら許せん。」

「え、ここで!?」

「オイ!!麦わら!!やめろ!!」

「なまえ屋も照れるな!」

ルフィが制止を聞くはずもなく、なまえの唇をその場で奪った。ローとキッドは顔を赤くさせて、怒鳴り散らすが聞いていない。

「ここでやるな!!アホか!!」

「麦わら屋!殺すぞ!」

「何だよお前ら、羨ましいんだろ?」

「「んなわけあるか!!」」

多少、羨ましいなんて……思っていない。

その後もレースは問題なく進んだ。早食いだったり障害物を乗り越えたり足ツボの上を歩いたり、簡単なものだった。
だが、その競技中3海賊が有利になるような不運が国民達を襲っていた。単なる偶然には重なり過ぎているとルフィも疑問に思う。3海賊達は接戦で、9番手までそれは維持された。

「んーーーー。やっぱりおかしいなぁ。」

ルフィの疑問に、隣に立っていたハート海賊団のペンギンとキッド海賊団のヒートは触れる事なく仲間の到着を待つ。
1番に来たのは麦わらの一味のサンジだった。

「ほらよ、ルフィ!1億ベリー頼んだぞ」

「んーー。」

サンジからバトンを受け取ったルフィだったが、動く気配がない。

「おいルフィ!何してんだ?走れ!」

「お前らも、行くな」

ルフィがペンギンとヒートの体に腕を巻きつけて、行かないように阻止する。その行動に会場が騒ぎになっていた。
ローとキッドの一味、そして麦わらの一味もルフィの行動の意味が分からない。

「麦わらチーム!?走り出しません!他のチームを妨害しています!許せません!」

国王の声を無視して、ルフィはスタートラインに留まり続ける。島民たちが追いつき、そして越していった。
今年こそは自分たちが1億ベリーを手にするんだと必死だった。だってみんな貧しかった。毎年この大会の為にお金を貯めて一攫千金の為に努力し、そのチャンスをくれる王はすごいと信じて疑わない。
最後の競技は大玉が転がってくるというもの。大玉に邪魔され国民達はなかなか前に進めない。その玉の勢いは前に行かせる気などないように見えた。

「ルフィ!!走らねェのか!?」

サンジの問いにルフィは答えず。二人を掴んだまま、ゆっくりと歩いていく。
大玉が転がってきて、三人に当たる。けれどルフィは転ぶ事なく歩き続けた。ルフィが強いのではなく玉の勢いがかなり弱い。

「やっぱり。」

ルフィは二人を離して、腕を伸ばして空へと飛んだ。
会場はどよめき、ペンギンとヒートも進まずにルフィを見上げた。
ルフィは国王のいる飛行船へ着地し、窓を蹴破った。

「ひっ!!!!」

ルフィに睨みつけられ、国王は顔を歪め腰を抜かして尻餅をつく。

「今すぐ止めろ」

「な、何を!!!」

「あいつらに賞金渡す気がねェなら止めろ!!」

国民達はまだ必死だった。王が危険になろうと、1億ベリーが欲しい。なぜなら、貧しいから。

「おれはなァ!!島民たちに楽しみってもんを作ってやってんだ!ただし!!そんな大金渡せるわけがねェ!おれ以外に裕福になる必要がない。おれに憧れてあいつらは努力するんだろ?だから毎年ここにくる海賊達に賞金渡して待機させてる海兵に捕まえさせるんだ!ハハハ!!!1億ベリーはこの国のものとして帰ってくる。この国のものは、この国王のものだ」

ルフィは拳を力強く握った。あんなに必死に頑張る理由が国民達にはある。子供のため、家族のため、生きるため。裕福に暮らしたいから、王みたいに。

「そんなずるい考えで、弄ぶなよ!!!!」

ルフィは足を天に長く長く長く、伸ばす。
国民たちの足は止まっていた。マイクの電源がまだオンになっていたとは知らず、国王は嘲笑い本音を吐いたのだ。

「そういう娯楽が必要なんだ、国ってやつは」

「お前が王になる資格ねェ!!ゴムゴムの……槍!!」

ルフィの伸ばした足が下ろされて、飛行船が勢いよくステージに墜落する。
国王はその中から顔を出した、血だらけになりながらもルフィを指さす。

「国民達!!こいつは悪い海賊だ!1億ベリーを盗んで去るつもりだ!!捕まえろー!!」

しんっ、と辺りは静まり返る。
ルフィに指を向けて国民に訴えかけるその姿はもう国王とは思えなかった。
一人、動いた。恐る恐る国王に近づく男。腕を持ち上げ、その頬目掛けて振り下ろす。

「グハッ!!お、お前!王様に向かって!!」

その男に続くように、国民たちは王に近寄り腕を拘束した。
ローとキッドは背を向ける。この後のことは、海賊たちに関係のない話だ。

「茶番に付き合わされたな」

「行くぞ!」

ハート海賊団、キッド海賊団はその場から静かに去っていく。
麦わらの一味もルフィの言葉をただ待っていた。

「おれ達も行くか!賞金は残念だけど」

いつものルフィの口調になり、なまえがいつの間にか拾っていた麦わら帽子を受け取る。

「ほんっと腹立つ!私結構頑張ったのに!絶対1億ベリー手に入ると思ってたのに!!」

ナミは鬼の形相に変わり、誰も彼女には触れないようにする。とばっちりは喰らいたくない。
麦わらの一味も歩き出す。国民たちは頭を下げたが、誰も振り返ることはない。
所詮、海賊だから。感謝されたくてやったわけじゃない。ただむかついた、それだけのこと。

「今回のMVPはなまえだな!」

ウソップの言葉にチョッパーは大きく頷いた。

「すごかったぞ!なまえの掛け声であいつら動いてた!」

「かなり恥ずかしかったよ!?」

なまえは恥ずかしそうに笑う。1億ベリーがかかってなければあんな状況に、もう二度とならないはずだ。貴重な体験とも言える。

「なまえちゃんの繊細な肌に触れて、肩にも乗せやがって!!羨ましー!!」

「本音が漏れてるぞ、エロコック」

「ああん?クソ羨ましいだろうが!!」

「ヨホ!パンツが見えそうだったのに残念です」

「この変態が!!」

ナミがサンジとブルックの頭を一発殴っておく。なまえは顔を赤くさせて、少し怒っている様子だ。

「忘れてたのに、ムカついてきた!」

「サンジとブルックが思い出させちゃったわね」

「今すぐ洗い流すぞ!」

「え!?ちょっと!!ルフィ!!」

ルフィはなまえの身体に腕をぐるぐると巻き、抱きかかえると走り出した。一足先にサニー号に戻り、風呂場に直行する気だ。
いつも通りの二人に一味は呆れたため息と、柔らかな微笑みを浮かべた。

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