ーーーーー何かが落ちる音がした
 
 
「なにしてんだ?」

「え…わっ!ルフィくん!」

空の青色だった視界に突然ルフィくんが現れた。ニカッと笑うルフィくんは私を見つめている。見られるだけで顔が熱くなるのがわかった。

「どうして…」

「ナミに聞いて抜け出してきた!」

授業だと言うのにわざわざ来てくれたらしい。それだけでも嬉しくなって舞い上がってしまいそうになる。これがモテる原因なんだろうな。

「海はいいな!」

私が泣いていたことには触れず、太陽みたいな笑顔で海を見つめるルフィくん。第一印象と変わらない笑顔に、私の不安は少し薄れた。
ルフィくんにも、打ち明けようかと迷う。ただ私の小さな恋心が、邪魔をしていた。ルフィくんだからこそ、いじめられていた事実を知られるのが恥ずかしい気持ちもある。

「ルフィくん学級委員なのに」

「ナミがいるからいいんだ。」

「関係ないでしょ!」

そう言うと、ルフィくんは声に出して笑う。胸が高鳴って仕方がない。

「あ、昨日ゾロと何話したんだ?」

「んー…食堂のきつねうどんが美味しいとか、何時に寝たとか…他愛もない話だよ」

「ふーん。」

聞いてきたのはルフィくんなのに興味がなさそうだ。
風が強く吹き、私の髪を揺らした。涙はいつの間にか止まっていて、また鼓動が速くなる。悩んでいたはずなのに、心臓は関係なくルフィくんにときめいていた。

「アキは笑顔の方がいいぞ」

「え、き、急だね」

真顔でルフィくんに見つめられ、思わず目を逸らす。顔が一気に熱くなった。顔が整ってるなぁとルフィくんのことしか考えられなくなる。

「笑顔が似合う。あと、勝手にサボるなよ。おれに言え」

「わかった、ごめん」

「それと、アキは謝りすぎだぞ。」

確かに、ルフィくんに言われて気がついた。無意識に癖になってしまったようだ。

「ごめん、あ、じゃなくて…」

「ししっ、まぁいいけど、笑ってくれるなら」

「ははっ、なにそれ」

声に出して笑うと、ルフィくんが私の髪の毛に触れてきた。ドクンと心臓が大きく鳴るのが分かる。これ以上、ダメだ。もっと好きになっちゃう。私の癖に気がついてくれるところとか、泣いた後に来てくれるところとか、すごくーーーー

キーンコーンカーンコーン

とチャイムが鳴って、髪の毛から手を離しルフィくんは突然立ち上がった。

「あー…戻るか?」

「うん、戻ろっか」

私も立ち上がって、ルフィくんの後ろに続く。
強風が吹き、髪の毛が舞う。髪の毛を整えながら扉から中に入った。

「アキ、髪乱れてるぞ」

「うん、たぶんすごい変だよね」

笑いながら言うと、ルフィくんはバッといきなり横を向いてしまった。どうしたんだろう。

「ルフィ!!あんたね!勝手に教室飛び出すな!」

聞き慣れた声。ナミちゃんが近づいてきていた。ルフィくんにすごく怒っている様子だ。

「おう、ナミ」

「あんた学級委員の自覚持ちなさ……顔真っ赤だけど、大丈夫?」

ナミちゃんがルフィくんを心配そうに見つめる。私もルフィくんを見ると、耳まで赤くなっていた。
ナミちゃんに会って照れたのかな、と推測する。

「暑ィだけだ」

「暑い?もう涼しいわよ」

「うるさいぞ、ナミ!」

「あ、ナミちゃん…ごめんね」

「アキはサボり魔じゃないし、一回くらいならいいわ。授業退屈だもの。」

私にニッコリと笑いかけたあと、おれもと呟くルフィくんを殴ったナミちゃんはまた笑った。

「ルフィ、今日だけだからね?」

「おう!ありがとなナミ!」

なんとなく、お邪魔な気がして立ち去る理由を探す。はやくどこかに行かないと。ルフィくんも顔を赤くさせるほどナミちゃんのこと……そこまで考えて胸が苦しくなった。自分で自分を傷つけてどうするの。

「私、自販機行こうかな」

二人の邪魔をするくらいなら私は消えた方がいい。すると、ルフィくんに腕をガシッと掴まれた。

「じゃあおれも行く。」

黒い瞳に見つめられ、思わず照れてしまうが、そういうわけにもいかなくて違う言い訳を考える。

「あー…でもお腹痛いし、保健室で休もうかな。」

「大丈夫か?おれが連れてってやる」

「いや、違う!じゃなくて…」

「なんか逃げてねェか?」

じっと、真剣な顔で見つめられて、言葉が出てこない。どうしよう、意外と鋭い。

「そ、そんなことないよ」

「ルフィ、アキは女の子の日なのよ。」

「え!あ、そうかそうか!早く行って来い!」

そういうお腹の痛さじゃないんだけど、というか本当はお腹が痛いわけじゃないんだけど。ナミちゃんは何かを察してくれたようで、ウインクまでして見送ってくれる。

「早く帰って来いよー!」

そんなこと言うなんてズルい。少しため息をついて、トイレに向かった。女の子の日ではないので、勘違いされて恥ずかしいけど。
その途中の廊下でゾロに遭遇した。ニヤリと笑っている。

「サボりとは、意外といい度胸してんだな」

「からかわないでよ、ゾロ」

「ん?……泣いたのか?」

「ううん、欠伸したからかな。トイレ行くから、また後でね」

それからゾロは何も言わなかったので、逃げるようにトイレに向かった。やっぱり、ゾロにも陰口を言われた事実を話せそうにない。陰口を言われている自分が恥ずかしいし、巻き込みたくないって思ってしまう。
2限目が始まるギリギリまで私はトイレで時間を過ごした。



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