私語(ささめごと)
 ここに来てリウ・シエンは新たな自分の弱点に唐突に気がついた。
 恐らく予想外のことであったというのも弱点に転化した理由ではあるのだろうが不用意に弱点が増えてしまった事には変わりない。
 弱点。
 そう、弱点である。
 しかし弱点でありながら決して不快な訳ではないからとても困ってしまうのだ。

 ルオ・タウは余り表情の変化がないだの感情の起伏が解りづらいだのと最初に言ったのは誰だと、それが自分である可能性は横に捨て置いてリウ・シエンは唸る。
 最初こそそういった印象は正しいものだと思っていたが共に居る時間が長くなるにつれそれがルオ・タウの表層の一部に過ぎないのだと気がついた。
 よく見ていれば確かに他者に比べれば乏しいものの表情の変化はきちんと有るし、感情の起伏も口調に惑わされているだけで実はきちんと滲みだしている。
 それが分かれば分かるほど感じるルオ・タウへの親しみにリウ・シエンは気を許していた。
 気を許していたからこそゆっくりとした速度であれ惹かれていくきっかけにもなったのだろう。
 だからこそ、質が悪い。


「…リウ・シエン」
「っ…!」

 何とか洩れそうになった声はこらえられたが肩が揺れるのは止められなかった。
 新たな弱点のせいだ。
 今リウ・シエンの身体はルオ・タウの腕の中に在りその状態で耳元に吹き込むようにして名を呼ばれた。これに、弱い。
 耳自体が弱いというのも有ったのだろうがそれ以上に、間近でどこか囁くように紡ぎ出されるルオ・タウの『声』にリウ・シエンはどうやら弱いようだった。
 恐らくは彼しか聴いたことがないだろうその声音の意味を理解する度に、鼓膜を震わせる控えめな言葉の持つ意味を意識する度にリウ・シエンは体内が沸騰するのを感じる。
 本当なら自分からも同じように囁きを返すべきなのかもしれないことはリウ・シエンも分かってはいるがどうしても羞恥が先に立ちそれもままならない。
 ようやく素直にルオ・タウの肩辺りに顔を埋めて背に手を回せるようになったばかりなのだから当たり前なのかもしれないが。

「………、……」
「…恥ずかしいヤツ…」

 囁かれた本人ですら耳を澄まさなければ聞き逃してしまいそうなルオ・タウの小さな小さな睦言はリウ・シエンの頬に紅葉を散らすには十分で。
 これは厄介な相手に落ちてしまったと後悔はすれどそこから這い上がる気になど毛頭なれない時点で相当に入れ込んでしまっているのだと嫌でも分かり、リウ・シエンはどこか開き直った笑みを浮かべるとそっとルオ・タウの耳元へと唇を寄せた。


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