夜想
 小さな小さな虫達の囁きと夜鳥の遠い囀りが遠慮がちな音色で鼓膜を震わせる。
 その響きに誘われるようにリウ・シエンはゆるりと瞼蓋を持ち上げた。
 まだ夜明けを迎えていない室内は仄暗く目が慣れていない為か上手くその輪郭を捉えることは出来なかったが穏やかなリズムで微かに前髪を揺らすそよぎを感じて小さく目を細めた。
 初めの頃はどうにも馴染めずにいた近すぎる体温も添えられた腕の重みも今では当たり前のようにしっくりきてしまっているのだから始末が悪い。
 リウ・シエンのおこす一挙手一投足に対して敏感な彼を起こしてしまうのではないかと危惧すれば迂闊に身じろぐことも出来ずただこの状況を甘受するしかなくて。
 もう一度眠ろうかとリウ・シエンは再び瞼蓋を閉じようとしたが白々と夜が明け始めたことに気付いてその動きを止めた。
 きっちりと閉め損ねていた帷の隙間から入り込んだ薄明るい空の色が室内を照らしこれまで闇に埋もれていた輪郭を少しだけその下に晒させて。
 ようやく夜闇に慣れたリウ・シエンの目が薄明かりに手助けされて暗灰の色に染められた彼を見やる。
 穏やかに伏せられた瞼蓋を飾る睫毛が呼吸に合わせて微かに揺れるのが見て取れて思わずその整った寝顔を見つめた。

(結構男前なんだよな、こうして見ると)

 そんなどうでも良いような感想が浮かんで来る位には世界は静かで。
 しかしそんな思考を遮ったのは人体が当たり前に備えた機能だった。
 掛け布から僅かに覗く肩が冷え小さくふるりと体が震えて寒さを訴えたのだ。
 それもその筈、彼らは今衣服と呼べるような物を何ひとつ身につけては居らず暖は互いの体温と掛け布のみしかない。

(…あ、やば…っ)
「…ぷしっ」

 気配を感じて堪えようとしたものの上手くいかず結局くしゃみの残骸のような息が音として出てしまいその瞬間眠っていたルオ・タウの目がぱちりと開いた。
 その瞳はしっかりとリウ・シエンをとらえている。

「冷えてしまったようだな。今服を…」
「あー、別にいーって」

 すぐに状況を察知して寝台を降りようとしたルオ・タウの腕にリウ・シエンは引き留めるように手を添えそれに従うように彼は動きを止める。
 しかし向けられる視線には伺いが色濃くてリウ・シエンは思わず表情を弛めた。

「十分温かいしさ」

 それを示すように身を寄せるとルオ・タウがふ、と息を洩らす音が聞こえてそれに続いて起こしかけた体が横たえられて。
 再び心地よい腕の重みが腰の辺りに重なり背を抱くように回されれば温もりがじわじわと染みていく。
 そっと掛け布を引き上げてしまえばもう寒さなど欠片も感じなくてリウ・シエンは表情を弛めた。
 こんなに心にも体にも馴染んでしまってはもう手放せっこない。


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