短編 | ナノ


▼ 千冬に介抱される2

「明日学校だよね?」と暗に名前さんに帰るよう促された時は、まあまあいい雰囲気だったのにこの人やけにあっさりしてるなと寂しく思った。だけど、今思えば有難い気遣いだったと思う。

眠い。眠すぎる。

場地さんの勉強に付き合ってる最中、頬杖ついてあくびを噛み殺す俺に場地さんは「??珍しいな。さては夜遊びしてただろ。千冬」と笑う。分厚い眼鏡(伊達)から覗いた目が何か邪なモノを含んでいたことに気づいた俺は「いや、場地さんが想像してるみたいなそんなイイモンじゃねぇっスよ」と慌てて反論した。

そんなイイモンじゃない。

昨日偶然介抱することとなった年上の可愛いお姉さん。最初は公園で蹲って気分が悪そうだったから声をかけたけど、声をかけると顔面蒼白ながら見上げた顔が好みだったので、俺はその瞬間このカワイイ酔っ払いの体調が回復するまで甲斐甲斐しく面倒を見ることに決めた。つまり完全な下心。

女の愚痴なんて普段ならうんざりする所だけど、名前さんの話はユーモア混じりで面白かったし、単純ながら俺だって男なので至近距離で髪や腕に触れられてぐらぐらキてた。もっと正直にいえば、このまま可愛い年下の男の子を演じてたら童貞卒業出来るのでは?って甘い期待もなくはなかった。

結局妄想は妄想で終わり、俺は勇気振り絞って名前さんを家まで送って連絡先を手に入れただけだ。情けない。自宅に帰り、「また会いましょうね」って一文を打っては消してを繰り返してるうちにその日は深い眠りに落ちた。

「(大人の恋愛ってなんだよ・・・・・)」

義務教育真っ只中の中学生の恋愛なんて、大抵出会いも別れも同じ学校の中で済ませてしまうヤツが大半だ。そこから外に出ても他校の生徒に手を出すくらいで、中坊がカワイイ社会人のお姉さんと付き合えるなんてそんなのAVの中だけの話だと思っていた。

でも名前さんは確かに現実に存在する人で、合法で酒が飲める大人で、俺が今一番気になっている人。

女の子は水玉とリボンとサプライズに弱いものだと今までは信じて疑わなかったんだけど、果たして社会人の名前さんにもソレが通用するんだろうか?何もかも分かんねェことだらけだ。

好きで読んでる少女漫画は大体紆余曲折ありながらも学祭辺りのイベントで結ばれる学生の恋愛ばかりで参考にならなかったから、なんとか打開策を見つけようと猛烈に襲いくる睡魔と闘いながら、授業中、話題の恋愛ドラマをこっそりスマホで見ていた。

そのドラマの主な内容としてはキザな口説き台詞を真顔で言えるイケメンと美女が順序を踏んで社内恋愛するよくある大人のラブストーリー。

『先輩、私、あなたのことが!!』

やっぱり何の参考にもならなかったどころか、オフィスで恋に落ちる女優の顔を名前さんに置き換えてしまって、猛烈に腹が立ってきたので1話の途中で見るのをやめた。

「ふーん。じゃあどんなモンだよ?」

そんなわけで行き詰まっていた俺に尊敬してやまない場地さんが問う。机の上にシャーペンを放り投げ、じゃあ聞かせてみろよ、と真面目な顔で俺を見る場地さんをはぐらかすという選択肢は俺にはなかった。
洗いざらい昨日の晩のことと連絡取るか迷ってることを場地さんに話すと「へぇー」「ヘタレすぎんだろ」と時折からかうような相槌を交えながらも、

「どうすればうまくいくかとかそんなのはシラネーけど、年上の女がベロベロの姿見られた中学生口説くのは、お前がそのネーチャンに連絡するより何百倍も難しいと思うぜ。
つまり好きだって悩むなら千冬が頑張るしかネェってこと。」

と、ドラマなんかより、至極真っ当で、真っ直ぐな、納得のいく答えをくれた。

この人、勉強は俺よりできないのに、ちゃんと優先順位とか正しいことを知ってるんだ。

「やっぱスゲーわ。場地さん。」

答えは決まった。

つまり、男を見せるなら"今"しかネェってコトだ。


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