短編 | ナノ


▼ 三ツ谷と王様ゲームで

女だから云々とか、男だから云々とか、人をステレオタイプに当てはめる考え方は好きじゃない。
とはいっても、私はこれまでずっと自分と似たような人間ばかりを友達に選んできたし、真逆だと感じる人はそれだけで苦手だと決めつけてきた。型にはめるのが嫌いという割に自分にもそういうところがあるなってちょっと今までの在り方を反省するような出来事があって、私は心機一転、もうちょっと広い視野で自分の世界を切り開くことにしたのだ。

「王様だーーーれだ」

しかし、結構長いことこの陽キャ空間にいるのに、私は一切の彼ら彼女らへの理解が追いつかずにいる。

「ハイ、名前ちゃんも引いて引いてー!」

やたらテンション高い男の子から差し出された割り箸をイヤだなーと思いつつ結局苦笑いで引いてしまった私は所謂生粋の陰キャというやつで、「名前ー、ドキドキするねェ」なんて単なる他校の男子との合コンを「交流会」という名目で騙した友達はまごう事なき陽キャである。コレはなるほど、価値観が違う。ステレオタイプに当てはめるようで感じの良い言い方ではないけど、結局陽と陰は歩み寄れても、やっぱり完全には分かち合えない種族なのかもしれない。

「じゃー、どうしよっかなぁ?1番と3番が恋人繋ぎでポテチ買ってきて」
「エー?ゆかりちゃん、ちょっとぬるすぎじゃない??ゴムでも買ってこさせれば?」
「もお、マッツン、エロすぎー」

男の子も女の子も何がそんなに面白いのかゲラゲラと下品な笑いを浮かべていて、流石にうんざりしてしまった。私のノリが悪いと言われたらそれも一理だけど、だってみんな、異性の目に浮かれ切っているのが露骨すぎるくらい顕著だし、何より親不在の自宅で合コン開催している男の子が大量に違法な飲み物をテーブル一杯に取り出してきた時から私の心は彼に歩み寄ることをやめた。その上、誰も特に突っ込むことなく「あ、ウチそれがいいー!」「へえー、美味いの?後で一口飲ませてよ」なんて各々慣れたようにその飲み物に手を伸ばし、一切躊躇うことなくそれに口をつけてるから、私は口をあんぐり開ける他にリアクションがなかった。

………どうなってんの、倫理。私らまだ中学生だよね?

このただれきった目の前の光景を陽キャの一言で片付けるのは、流石に真面目に生きてる陽キャにちょっと失礼な気もする。

到底理解し難いし、居心地も悪いし、帰りたいの一言だったけど、もうすっかり酔いが回ってる友達をこんな男の家に1人残して帰ることもできずに、何か良からぬ間違いが起きないようにとこの子の分まで気を張ってピッタリと隣に張り付いていた。そんな私の気も知らず友達はあははあははと言い寄ってくる男の子にくっつこうとしてるから、コラコラと服を引っ張ってそれを静止するに務めるのに必死だ。短いスカートが捲れて白い足がスラリと伸びる。ちょ、やめてよ。そんなやらしい目で友達を見ないでよ。裾をなおしながらじっとりと牽制する私はきっと出会いを求めてるこの男の子達やこの子からすれば邪魔でしかないのはよく分かっていたけど、やっぱりそれでも放って置けなかった。

「あ、俺、王様ー。じゃー、5番が10番に俺の部屋で膝枕15分ね」

この男、酒といい、ゲッスいことばっかしやがって。
いやらしく鼻の下伸ばす男の子を冷めた目で一瞥して、眠たげな友達をゆさゆさと揺り起こしていると、みんながなかなか現れない5番と10番に「私じゃない」「俺じゃない」とまるで犯人探しのように割り箸を見せて自己申告し出した。それをぼんやり眺めてたら

「あれ?名前の10番じゃない??」
「……………ェ?」

友達が私の割り箸をかかげて朗らかに笑えば、確かに私が床に放置していた割り箸の先には10と記されてあってで、ピキリと頬が引き攣る。何の根拠もなくこの人数で自分には当たらないだろうと鷹を括って勝手に余裕をかましていれば、この場全員の注目を集めてしまう有様であまりに居た堪れない。視線を彷徨わせながら、ねぇどうしようと友達に助けを求めてると「………あ、ワリ。5番、俺だわ。」輪から外れて携帯をいじっていた彼も遅れて気づいたようにしれっと挙手をした。……………ウソでしょ??5番の彼に視線が釘付けとなる。

薄紫がかったグレーの頭に剃り込み眉毛、ごっついピアス、その厳つさを端正な甘い顔立ちで打ち消す三ツ谷くん。

私と同じく合コンと知らず騙されて連れてこられた口らしく、「ナァ、聞いてねぇんだけど、」と厳つい特攻服姿見で遅れて現れた彼は、愛想よく笑うことをしなくても女の子の熱い視線を一目散に集めた。大声を出してるわけでもないのにその場に響く凛とした掠れた低い声は確かに魅力的だ。お酒を薦められても「飲まない」「シツケーぞ」ときっぱり断る姿にもきゅんとしてしまう。ちょっと怖いけど見た目によらないのかもなんて希望的観測抱いちゃう程度に私も他の女子同様にその甘いルックスに絆されていれば、「だから今日バイクだから無理つってんだろ。同じこと言わせんな、ボケ」とほんの数分までの幻想をぶち壊すドスを効かせた声に密かにガックリと肩を落とした。

……む、無免許、運転………………。そういえば、あなた暴走族なんですってね、そうでしたそうでした、危ないとこだった。特攻服見えてないフリしてしまった。顔が良くて、つい。

そんな彼の膝を枕にするなんて、ただでさえこの場から浮いてる私には無理が過ぎる。

一瞬でもカッコイイと思ってしまった三ツ谷くんに、お前かよ、みたいな幻滅顔されてもトラウマなりそうだし、きっとこの場には私と代わりたい女の子しかいないはずなので、ここは潔く辞退しよう。意を決して口を開こうとすれば、その前に友達から「行ってらー。私これでも結構シラフだからナマエも心配しないで楽しんできなよ」なんてこちらの気も知らずにヘラヘラと手を振って送り出される。

「アー、………んじゃ行こっか?」
「………は?」

え?

「盛んなよー、三ツ谷。」
「ッセーわ。」

は???

相変わらず状況が飲み込めないまま、目の前に立った三ツ谷くんからすっと手を引かれて、突き刺さる複数の痛い視線をバックにその場を連れ出される。部屋に向かうまでの間、歩幅も気も小さくなる私を引っ張るように三ツ谷くんは数歩前をスタスタと歩いた。いやこの人何で無言なんだろう………。怖すぎるし、私が言うのもなんだけどそんなにノリ気じゃないなら帰ればいいのにな……。何度か来た事があるのか三ツ谷くんは迷うことなく突き当たりの部屋の扉を開けて中へと入った。パタンとドアの閉まる音がやけに重々しく響いた気がして、今後の展開にヒヤヒヤしながらゴクリと小さく生唾を飲めば、何やらクスリと小さく笑われた気がして釣られるように視線を上げる。

そこには先程までの少し冷たい印象の彼はおらず、信じられないくらい甘ったるい顔をした彼が、視線をふにゃりと柔げて微睡むように私を見ていた。思わずドキリとするほどに優しい眼差しを向けられて、その上追い討ちのようにギシッと嫌に官能的に響いたベッドがマジで嫌。思春期みたいじゃん、いや思春期なんだけど。三ツ谷くんは他人のベッドの上であぐらをかくとぽんぽんと膝を叩く。

「ほら、きなよ。」
「え、いや、でも、誰も見てないのにそんな馬鹿正直にしなくても……」
「ウン、まあ嫌かもだけど一応ルールにそっとかねェとあいつらウルセーしさ。」
「な、なるほど????」
「名前ちゃんがすんのは抵抗あるだろうけど、俺の膝は減るもんでもねぇし?」
「…謎、理屈ですね。」

だからさ、ホラと続けて、早くココに頭を置くようにとぽんぽん促される。動物か小さな子どもに接するみたいな気やすさで微笑まれて、流石にもう怖いとは感じない。それどころかドキドキと心臓を痛いほどに高鳴らせるうちに、私の頭も徐々にバグっていった。恐る恐るベッドにのそりと乗り上げると三ツ谷くんは笑みを深める。やっぱりこんな状況で大人っぽくてカッコイイ男の子と向き合うのは緊張してしまって何となく一旦正座した。

「……失礼します」
「ウン、おいで。」

半ば強引に頭を引き寄せるようにクイっと押されて、そのまま三ツ谷くんの筋肉質で弾力ある固い太ももにポスンとダイブする。横向きに寝転がらされれば、それだけでいっぱいいっぱいなのに何故か見知らぬ女子を膝に乗せても余裕の表情の三ツ谷くんは私を見下ろして、自然な流れでゆるくサラサラと髪をすいた。なかなか見ないような下からのアングルでちらちらと三ツ谷くんの顔を盗み見ていれば、かっちりと視線が噛み合い、つむじに向けてカァッと血が上るのを感じる。心臓がえらく煩い。

それほど遠くないリビングから盛り上がる男女の声が聞こえるけど、その騒がしい声もこの部屋からは切り取られたように遮断されてどこか遠かった。

「手慣れてる……、爛れてる……、」

コレはもう照れ隠しである。多分それすら分かっていそうな三ツ谷くんが「手慣れてもねぇし、爛れてもねぇよ」おもしろおかしくケタケタ笑うのに合わせて私の頭もゆさゆさと揺れた。「アー、名前ちゃん、マジでカワイ」人差し指と中指の腹がそっと頬をなぞるように触れて、全身の筋肉が強張る。トキメキにしては暴力的なまでに脈を打つ心臓に呼吸を荒げてしまって、慌てて三ツ谷くんからそれを隠すように顔を手で覆えば、「あ、それ、ダメ。もっと見てーから禁止。」と指先に少し力を込めてすぐに取り払われる。

「………、ナァ、延長とかねぇのかな??」

体感的には5分くらいかと思っていたけど、もう15分がたとうとしてるのだろうか。チラリと携帯で時間を確認していた三ツ谷くんが名残惜しそうに私に問いかけてくる。もっと一緒にいたいと暗に言われてしまい、それを本気にしてしまいそうになる自分に釘を刺す意味で「ある訳ないし。そーいう冗談よくないよ」と少し厳しい口調で突っぱねた。キョトンと目を丸くした三ツ谷くんが私の顔を覗き込む。そしてスっとさっきまであまぁく緩んでいた視線が、少し厳しい色をして細められた。

「……冗談にされんのヤなんだけど、」
「、え、いやだって、冗談でしょ?」
「だってもクソもねぇよ。名前ちゃんがこの家からいかにも逃げ出してーって面してる時から、俺は名前ちゃんのこと見てたよ。健気にさ、男達から友達守ってやってんの見て、王様ゲームとかくだんねーけど出来ればこの子と当たんねぇかなって内心期待してたし、沢山甘やかしてーなって思ったんだけど、………ここまで言っても信じらんねェ?」

悪いけど全く信じられない。だって三ツ谷くんが最初から私を見てたなんてどこのお伽噺??小さく頷けば、信用ねぇなってため息をついた三ツ谷くんは「………なあ、後ろ見てよ。」そう続けてドアの方を向いていた私の頭を真反対に転がせば、目と鼻の先の思いもしない光景にぎょっとする。ヒェッと小さく身じろいで、一刻も早く顔を逸らしたいのに頭を掴まれていてそれは許されない。

“ “

それから耳元に寄せられた唇がこの上なく卑猥な言葉を発すれば、少しだけ私の上体を起こさせる三ツ谷くんは私の舌先をジョーズに絡めとる。「………んぅっ」隙間から漏れる自分の吐息がまるでさらに深く求めるように切なげに聞こえて、自分がこの状況に興奮しているのが嫌というほど分からされた。横隔膜の辺りが小刻みに震える。行き場のない手の平が何故か縋り付くところを欲していたので、耐え凌ぐように三ツ谷くんの特攻服の胸元をぎゅうっと握っていれば、伏せたまつげの下からそれを見た三ツ谷くんは下唇を食むのを最後に唇を離した。

僅かに呼吸を荒くした三ツ谷くんが去り際唾液に濡れた唇を舌先で拭う。

「………なぁ、抜けねェ??」

三ツ谷くんから与えられる甘さにシラフの体が熱を帯びて酔いしれてる。ぼんやりと上手く働いてない頭でもなんとなく意味は分かってはいたけど、わざとらしく「………どこに?」と聞けば、「野暮じゃん、邪魔されねぇトコロだよ」と酷くあくどい顔した三ツ谷くんが意味深な笑みを浮かべた。

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