あの可愛い三兄妹は私になかなか有意義な休日を与えてくれた。休日は家に引きこもることが多い上に保育士でも母親でもない私が、年齢の違う子ども達とたまたま出会って、仲良く出来た時間は、今思えば物凄く貴重で尊いものだった気がする。まあお互い生活圏が全く違うわけだし、もう会う事もないだろうけど、やっぱりあの時スルーせずに迷子を助けてよかった。と【三ツ谷 隆】から連絡が来るまでは、子供のときに道端で拾ったキラキラしたビー玉のような、そんな細やかながらエモーショナルな思い出にしようとしていた。

ピーンポーン

『ドモ。三ツ谷でーす』
『名前ちゃーん、こんにちはー!ルナだよ!!』
『マナもいるよー!!』
「こんにちはー。今開けるね。部屋は503だよ。」

インターホンをつければマナちゃんを抱えた三ツ谷くんとカメラ越しに手を振るルナちゃんがカメラ越しにうつる。マンションのオートロックを解除すれば建物に入っていく三人は当然カメラからフェードアウトしていったが、スピーカー越しに『魔法のトビラー!!!』『おい、ルナ!走るなって!!!』というお馴染みの叫び声が聞こえる。一週間前の再来のようで可笑しかった。

「「「お邪魔しまーす」」」

しかし、まさかこんな形で会えると思ってもいなかった。

緊急時のためにと思って交換しておいた連絡先から、【お久しぶりです。母親がお礼しろって煩いんで日曜に、マナルナ連れて家に行ってもいいですか?】件名も前振りもなしに来た突然のメール。たかが迷子を拾ってお兄ちゃんに引き渡したくらいで家までお礼に来てもらうなんて大袈裟だし律儀すぎると正直思った。けれど、彼達は先程まで宝物として処理しようとしていたきらっきらのビー玉である。
『お礼なんて全然いらないから気にしないで』と返してカッコ良く去るのが大人ってもんだろうけど、せっかくの再会を断るのも勿体ない気がして、書きかけた文章を住所に変え、今日に至る。

「あ、コレ。お礼です。こないだは有り難うございました。」

「此方のほうこそわざわざありがとね。また会えて嬉しいよ。」

そんな軽いやりとりを交わしながら、まるでお盆に孫が訪れたことを喜ぶお婆ちゃんのようだなと心の中で自虐する。「ツマラナイものですが」やけに畏まった言い方をする割に、全く畏まった様子ではない半笑いの三ツ谷くんからお土産を手渡された。飲み物を出すついでに台所でその箱を開けて見れば、美味しそうなケーキが四つと三ツ谷母からの手紙が添えられている。

『先日は子ども達が有り難うございました。マナ、ルナは勿論ですが、甘え知らずの隆まで名前さんとお会い出来たことがとても嬉しかったみたいで驚きました。一度の出会いでご自宅までお邪魔させて厚かましいかなとは思いますが、もしご迷惑でなければこれからも仲良くしてあげてください。』

丁寧な文字でしたためた文章に「(なんだ、もの凄く子ども想いの優しいお母さんじゃん)」と安堵の息を漏らす。なんだってのも相当失礼な話だけど、やっぱりしっかりしてても三ツ谷くんは15歳、ルナちゃんとマナちゃんはまだ目が離せないくらい小さい。お節介にも多少の心配があったので、心底安心した。

「ケーキ頂いたからみんなで食べよ。好きなの選んでいいよ。」

軽い気持ちで箱ごと机の上において選ばせれば、

「わーい!ルナ、いちご!!」
「えー!マナもそれがいい!!!」
「やだって!ルナが先にいったよ!なんでもまねしないでよ!!」

それを皮切りに髪の毛引っ張り合いの壮絶な喧嘩が始まる。えええっ、困った。言い合いだけに終わらず、女の子の喧嘩とは思えないほどなかなかバイオレンスだ。いくら仲介しようと止めてもヒートアップする一方で、どうしたもんかと困り果ててあーあとため息をつく三ツ谷くんに助けを求めれば、軽く申し訳なさそうに頭を下げられた後、2人に向かって険しい顔を浮かべる。

「おい、ここに来る前に仲良くできるならって俺と約束したよな?困らせにきたんなら連れて帰るぞ。」

いつもより低い声にピタリと二人の動きが止まって、お互いに掴んでいた髪をパッと離す。そして何もありませんでしたよと言わんばかりにお利口に背筋を伸ばして正座した。まさに鶴の一声。三ツ谷くんはルナマナちゃんにとってママでありパパでもあるらしい。

ごめんなさーい!三ツ谷くんと私に向かって口を揃える2人に私もほっと胸を撫で下ろした。

「全然いいよー、でも仲良くしてね。あんまり大きな声で喧嘩すると私がお隣さんに怒られるから」
「「はーぁい!!」」
「あとそんなにふたりとも苺が好きならルナちゃんとマナちゃんの分は1個を半分にしてハーフ&ハーフにしよっか。二種類食べれてお得だよー。」
「ピザかよ。」

すかさず入った三ツ谷くんからのキレのある突っ込みに苦笑いする。そうして上手いこと治った喧嘩のおかげでようやく楽しいスイーツタイムが始まった。

「名前さん、二択になっちゃったけど先選んでいいっスよ。俺甘いモンにこだわりないし。」

残ったのは桃の乗ったタルトとシンプルなシフォンケーキだ。そりゃあ桃の方が特別感あって好きだけど、通常運転で気を使ってきた三ツ谷くんの優しさに負けたくなくて、「いやだね。三ツ谷くんが先に選んで。」と強引に三ツ谷くんにケーキを選ばせる。

「・・・・・じゃあソレでお願いします。ホント、名前さんって世話焼きだな。」

まあまあブーメランな台詞をぼやきながら、根負けした三ツ谷君は渋々シフォンケーキを指差した。しかし、お皿に取り分けると三ツ谷くんのシフォンケーキが私のケーキと比べて少し味気なく思えたので、頼まれてもないのに私のケーキの桃を三ツ谷君のお皿の端に投下する。

「よかったねー、おにーちゃん。お姉ちゃんできたみたいだねー!」

もりもりと口元を汚しながら満足そうにケーキを食べるルナちゃんが三ツ谷くんに同意を求めてにっこりと笑った。三ツ谷くんは全力で苦笑いしながら「まあ、そーかもな。」と適当に返す。

そこで初めて今更ながら頼まれてもないのにやりすぎたかなって反省した。

調子に乗るといつもコレだ。よく会社でも名前のお節介のせいで後輩が育たないと注意される。自分が中学生の時は子供扱いされるのって結構嫌だったのに、それを忘れていた。

三ツ谷くんは頭を抱えてわかりやすく反省する私を横目で見ると、

「そんなにネーチャンになってほしいなら、ルナ、頼んでみれば?
俺が18になれば現実問題名前さんを三ツ谷にするの無理ではないしな。」 

な!!??なにいってんの!!?????

ほんとー!?名前ちゃん、ルナとマナのオネーチャンになって!!言葉の意味も分かってないのに盛り上がるルナマナちゃんに対して、私は思いっきりむせてコーヒーを吹き出しかける。三ツ谷くん、魔性なの!?どこか含み笑いだし、冗談には間違いないだろうけど、一瞬コチラに「なっ?」って同意を求められたのでドキリとした。

「い、いや!君ね、そういう冗談を女の人に気軽に言うもんじゃありませんよ!」

口元を拭って咳き込みながら、厳重注意すれば、「何キャラだよ」と三ツ谷くんはカラカラと声を出して笑う。ここ一番の笑顔だ。なんかもう少し硬派なイメージがあったけど、それが少しだけ崩れた。この間より気さくで距離が縮まったことは嬉しかったんだけど、今後こういう冗談は心臓には悪いからやめてほしい。
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